追い込まれているから、間違いを犯してしまう
もう一歩話を進めて、より良い叱り方をするための大事なポイントについてお話しします。
それは、なぜ子どもが大人から見ると悪い事だと見える行動をしてしまったのか、その背景に目を向けることです。仮に相手が小さな子どもであったとしても、その子の行動の裏には何かしらその子なりの考えがあります。なぜそういう考えに至ったのか、それを理解して変えていかなければ本当の解決にはなりません。
叱るというのは、相手の中に行動の判断基準を育てていくことです。小さな子であれば、悪気なく悪い行動をしてしまっている場合がたくさんあります。そういう場合には、理由を説明して良い行動と悪い行動の違いを教えてあげることが必要です。
では、今回の件における男子生徒の場合はどうだったのでしょうか? 判断基準を持っていなかった、つまりカンニングが悪い事だと知らなかったのでしょうか?
そうではないはずですね。常日頃から「カンニングをするやつは卑怯者だ」と指導されてきたのですから。
この生徒は、カンニングは悪い事だと知りながらやってしまった。それはつまり「ほかに方法が無い状況に追い込まれていた」のではないか、と考えてみるべきです。大きなストレスにさらされていたのではないか。学校や家庭から「良い成績を取らなければいけない」と過剰なプレッシャーをかけられる状況に置かれていなかったか。
そうした背景について考え、悪い事だと知りながらそれをせざるを得なかった生徒の気持ちに寄り添い、他のもっと良い行動を選択できるように支援をすることが、より良い教育の在り方だったのではないかと思います。
宿題の答えを写すことをやめられなかった生徒
実際に私の教え子のなかでも、かつて、環境に追い込まれて不正行為をした子がいました。宿題で答えを写していたのです。その子は小4の途中で私の塾に転塾してきた子でした。転塾のきっかけが、正にその不正行為だったのです。
その子は卑怯者などではありませんでした。怠け者でもありませんでした。とても素直で勤勉な子でした。なぜそんな子が宿題で答えを写したのか?
実は、それ以前に通っていた塾で宿題を提出した際に、間違いが多いと講師から怒られたそうです。その子は自力で全問正解することはできませんでした。怒られないためには、悪い事だと知りながら、答えを写すしかなかったのです。
先生に答えを写したことがバレてこっぴどく叱られ、もう二度としないと約束をさせられました。しかし、間違いが多いと怒られる状況は変わりませんでした。そして、自力で正解できるようになるための支援もありませんでした。結果として、その子は追い込まれ、再び答えを写すことをしました。
そして、またそれが先生にバレて、親御さんに連絡が行きました。状況を把握した親御さんは、「ここにいても子どもの成長は無い」と判断し、その塾をやめて私の塾に来たそうです。