イーロン・マスクでさえ自己資金だけではやっていけない

――ロケット開発は最初に大金が出ていって、量産してやっとお金が入ってくるのですね。イーロン・マスクだってスペースXには相当、お金をつぎ込んだと聞きました。

イーロン・マスクはスペースXの立ち上げの時、自己資金で1億ドル(150億円)を出しています。それでも足りずにアメリカ政府へのロビー活動に精を出している。

うちも5年かけて、文科省からの補助事業に採択()されましたが、それでもまだ不十分。またすぐ動かなきゃならない。ほんと、中小企業の社長の典型ですよ。もうお金は出ていくばっかり。

それでもいいことはあります。日本のロケット開発の様子が変わってきたこと。JAXA(宇宙航空研究開発機構)がH3ロケットの打ち上げに成功して、次のフェーズに進むことになりました。

※2:ISTは2024年3月にJAXAと「打上げ輸送サービスの調達に関する基本協定」を締結した。協定はJAXAが公募した超小型衛星ミッションで開発された衛星を打ち上げる民間事業者とのそれだ。JAXAはスタートアップ等による宇宙輸送サービスの事業化を打ち上げ発注契約によって支援する。

工場
撮影=プレジデントオンライン編集部

「怒ったんですよ、僕は」

――JAXAはいずれ輸送系ロケットの開発から退き、基金を民間企業に差配する役割に移るといわれています。JAXAにいたロケット開発の技術者はどうなるのでしょう。

開発現場が好きな人は民間に行くでしょう。そうなんです。うちにも技術者が来ています。

ほんとは昔、うちで採れたかもしれない人材だったけど、会社の人間が「うちはちっちゃいベンチャーだから、君はJAXAに行ったほうがいいよ」なんて言った。怒ったんですよ、僕は。そんな遠慮してないで、いい人材を採ることがスタートアップが成長するための原動力なんだからって。

うちだったら新しいエンジンをどんどん作れますし。エンジン開発はやっぱり大切ですが、タンクの溶接って想定以上でした。ISTは、コア技術を内製することで、ロケットの低コスト化や量産化を目指しています。タンク溶接も大きな開発マイルストーンの一つです。今は治具を使った手溶接でやってますけど、量産時はもちろんロボット溶接になります。