まったく無関係のタクシー運転手が犠牲に

追い抜かれたタクシーのドライブレコーダー映像が、法廷内の大型モニターで再生された。深夜の幹線道路を、アウディとパトカーがまさにかっ飛んでいく。じつはA男は特殊詐欺もやっていた。受け子を派遣して現金を上位者に渡す役割で、被害総額は約3600万円。そのことも逃げる動機としてあったようだ。

先の交差点が赤信号になった。交差道路から青信号で交差点へ進入しかけた車の、そのドラレコ映像が再生された。反対側からゆっくり進入してくるタクシーの横腹へ、赤信号無視の黒い物体(アウディ)が激突。タクシーとアウディは瞬時に画面から消えた。激しい衝撃で吹っ飛んだのだ。アウディの速度は約160キロだったという。タクシーの運転手は即死した。

そのあとの様子が、巻き添え被害を受けた車のドラレコに映っていた。大破したアウディの運転席からA男が外へ。重軽傷の弟と後輩を見捨て、自身も足に傷害を負ったのだろう、ひょこひょこと逃げていく……。

求刑は懲役20年。判決は懲役17年、未決勾留日数中350日をその刑に算入。服役の期間から350日を引くという意味だ。未決算入についてはテレビ・新聞のニュースで触れられることはない。

「いつか大きな事故を起こすんじゃないかと…」

(2)ついうっかり、不注意による事故

不注意な性格で運転には向かないような人もいる。ある交通事故の裁判で、被告人の同僚(建築関係)のこんな調書が読み上げられた。

「(被告人は)仕事は問題ないんですが、部屋は空き缶とかゴミだらけ。運転が危なっかしい。よくこする(電柱等に車体を接触させる)。いつか大きな事故を起こすんじゃないかと心配していました」

多くの運転者はそこまでひどくない。事故を起こすまいと運転する。だが、人間はそもそも不注意な生き物といえる。「ついうっかり」の瞬間がどうしてもある。何かに脇見して路側帯(歩道のない道路において白線で区画された帯状の部分)へ突っ込んだり、あるいは……。ごくありふれたケースを1件、紹介しよう。