なぜインド人が急増しているのか

韓国人の宝飾職人が増えたのと同時に、ここ御徒町ではインド人が急増した。インドで時計産業を発展させようとしたところ、時計産業がもっとも進んだスイスは国家的産業なのでなかなかインドに技術指導をしなかったが、日本はインドに積極的に技術指導をしたために、インドから日本に時計技術を学び、商売にしようとインド人がやってきた。

手巻きの時計から自動巻、デジタルに移行すると、古くからの時計職人が減り、時計から宝石に移行するようになり、インド人の多くが宝石に鞍替えし、上野・御徒町の宝石街にインド人がたくさん集まるようになった。

「噂だと100店以上インド系の卸があるみたい。やっぱり多国籍の街だけありますよね。不思議なことに、インド人でもジャイナ教っていう信徒なんです。知ってます? ジャイナ教ってわたし初めて知った。学校でも習わなかったし、まわりでも信者はいなかったし」

禁欲的なジャイナ教徒

ジャイナ教とはインドで生まれた独自の宗教で、徹底した禁欲主義、厳格な不殺生主義を教えとする。生き物を傷つけない。嘘をつかない。所有しない。むやみな性的行為をおこなわない。他人のものを取らない。インドで時々見かける白衣をまとった出家信者がジャイナ教徒である。

ジャイナ教徒の瞑想
ジャイナ教徒の瞑想(画像=Claude Renault/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

インドの人口は12億7000万人。中国についで世界第2位を誇るが(※)、ジャイナ教徒は420万人、インド全人口の0.3パーセントにすぎない。

※編集部註:国連人口基金(UNFPA)は4月19日、最新の世界人口推計を公表し、インドの人口が今年半ばに中国を抜いて世界最多となるとの見通しを示した。UNFPAの推計によると、インドの人口は14億2860万人に達し、中国の人口(14億2570万人)を290万人上回る見通し。

ところが嘘をつかない、禁欲主義といった勤勉さがビジネス上有利に働き、ジャイナ教徒は世界中で活躍している。その一つがここ上野・御徒町の宝石街への進出だった。

宝石という高額商品は信用が第一。ジャイナ教の「嘘をつかない」という教えは御徒町で強力なブランドになった。卸を営むジャイナ教徒の社長が御徒町の社屋にジャイナ教寺院を建てたために、上野・御徒町はジャイナ教徒の聖地になった。

宝石というある種人間の欲望を究極に高めた贅沢品を、もっとも禁欲的なジャイナ教徒が扱い、繁盛するというこのパラドックス的展開!

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