Netflixなどの動画視聴サービスのアカウントを他人と共有することは禁じられている。だが、不正視聴している人は後を絶たない。配信会社はなぜもっと厳しく取り締まらないのか。コロンビア大学のマイケル・ヘラー教授とカリフォルニア大学のジェームズ・ザルツマン教授の著書『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』(早川書房)より、一部を紹介しよう――。
「他人のアカウントで映画鑑賞」は罪なのか
ある夜、マンハッタンのバーにたむろしていたジェナ・ウォータムと友人たちは、今晩これから何をしようか、という話になった。するとみんな、ケーブルテレビ局HBOの人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズンプレミア(そのシーズンの第1回)を見たいという。
しかしこの番組をストリーミング再生するには、サブスクリプション契約をしなければならない。ウォータムの友人の一人(マイケルとしよう)は契約していたが、みんなもう家に帰って自分の部屋で見たかった。
この問題は、かんたんに解決できる。ログインに必要な情報をマイケルから教えてもらってアクセスすればいいのだ。ウォータム自身、「メキシコ料理店で一度会ったことがあるだけのニュージャージーから来た男」にログインパスワードを教えてもらったことがあるという。
この手の話はめずらしくも何ともない。他人のアカウントを使って人気の配信サービスの番組をストリーミング再生することは、いまや日常茶飯事だ。
ただし、ウォータムはニューヨーク・タイムズ紙の記者だった。サブスクリプション契約者限定の番組を他人のパスワードで見ることがどんな意味を持つのか、彼女はよく考えなかったのだろう。あろうことか、その晩の愉快な(人によっては厚かましいというだろう)出来事を公表してしまったのである。