前回の優勝時は増加したのに

これまでは、WBCやオリンピックなど国際大会での「侍ジャパン」の活躍が、競技人口の拡大に寄与していると信じられてきた。

日本は2006年の第1回WBCと2009年の第2回WBCで連覇している。実はこの2大会の視聴率は今回ほどものすごくはない。

2006年は、視聴率30傑のうちWBC関連は3つだけ、世帯視聴率の最高は決勝戦の43.4%(3位)。2009年は30傑のうちWBC関連は7つ、最高は日韓戦の40.1%(3位)だった。

しかしそれでも、その後の小中高の競技人口は増加した。

【図表】2005年~2009年 小学校、中学校、高校における男子野球部員数の推移
スポーツ少年団学童野球、中体連野球部部活、日本高野連資料より筆者作成

特に小学校は5年間で10%も競技人口が増えたのだ。

もちろん、他の要因もあっただろう。だが、野球界は、今回のWBCでの3回目の優勝が子どもたちの野球熱を盛り上げ、競技人口増加に寄与すると大いに期待を寄せていたのだ。

それにしてもわずか十数年前、合わせて65万人を超えていた小中高の野球競技人口が、今や30万人台。競技人口の減少の激しさには、愕然とする。

では、なぜ、かつてない大盛り上がりだった第5回WBCが、子どもたちの野球熱を喚起しなかったのか?

「草野球は実質的に絶滅した」

小学校の野球指導者は、「テレビで大谷翔平やダルビッシュ有など侍戦士の活躍に夢中になった子どもは、今年もたくさんいたと思います。子ども用のユニフォームもたくさん売れたようですし。でも、今は、子どもたちが野球をしたいと思っても、多くの市町村では、どこに行けばいいのか、とっかかりがなくなっているんです」と話す。

20年ほど前までは、市町村体位では、少年野球チームは3~4つくらいは存在したものだ。だから親は、子どもが「野球がしたい」と言えば、近所のチームに連絡し見学会に出て、チームに参加することができた。

しかし、スポーツ少年団に所属する野球チームは減少している。今では、少年野球チームが近所にない地域も普通に存在する。

競技人口が減って、維持できなくなったチームは数多い。また、後継者が見つからないため高齢化した指導者が引退しチームをたたむケースも増えている。

たとえ近くにチームがなくても、以前であれば「公園で草野球をする仲間」が見つかったものだが、今の公園はほとんどが「球技禁止」になっている。「子どもの草野球は実質的に絶滅した」という見方さえある。

さらに厳しいのが中学野球だ。全国の中学校数は1万1000校ほどだが、2005年にはこのうち9115校に部活の野球部が存在した。しかし2024年は7808校になっている。少なくとも5校に1校は「野球部がない中学校」が存在するのだ。