本部の行員も動員して「NISAキャンペーン」をする地銀
こうした状況下にも関わらず、大手証券会社やメガバンクだけでなく、個人向け金融商品販売を強化する地銀や信金まで、いまさらながら「NISAキャンペーン」を実施中だ。NISAに関わるTVCM放映や、NISA資産運用セミナーの開催、キャッシュバックや優遇金利の提供とあの手この手で顧客の取込みを図っている。NISA口座の普及率は、まだ全人口比20%程度であり、この先も拡大余地があるのは確かだ。
とはいえ、ここまで説明してきたようなメリットもあり、既にネット証券が過半のシェアを占めるなか、計画通りにNISA口座を獲得するのは至難の業だ。
東日本のある大手地銀では、本部に務める行員も、応援部隊として郊外の営業店に派遣され、朝9時の開店から閉店時間までロビーや入り口前に立たされ、NISAのパンフレットとともに、来店顧客に声掛けするも大多数はそのままスルー。たまに立ち止まってくれても、「あ、もうやってます、ネット系で」とにべもない一言だったりする。
「そりゃそうだよな」と現場はあきらめムードながら、金融当局の手前や競合他行もあり、早々と旗を降ろすわけにもいかないのだ。
割に合わず撤退するリスクもある
このように、①既にネット証券の独壇場であること、②システムコストなど費用増加、③追付かないFAの育成といった理由に加え、仕組債の販売などでトラブルが続いたこともあり、中小金融機関を中心に金融商品販売を縮小したり、事実上撤退する動きもある。
銀行や信金によるNISA取扱いも投信販売も義務ではないのだ。
城南信用金庫や中小の信金、地場の中小証券会社など、NISAを最初から扱っていない金融機関も実は多い。HP上に品揃えはあるが、人員の配置など積極的には行っておらず、事実上、開店休業状態の金融機関も散在する。
NISAだけでみると採算は厳しい。それはネット証券も同じだ。実際、つみたてNISA向けの投信は販売手数料がなく、信託報酬も低い。だからこそコスト削減と規模の経済を確保できるネット証券が優位に立てるのだが。
銀行や信金は、NISAの口座開設を機に、NISA枠以外の資産運用、住宅ローンなどを獲得することで、総合的な採算を確保していくことが必要となるが、競合他社もあり、簡単ではない。
NISAは、金融機関にとって小口でシステムコストもかかり、割に合わないビジネスであるのは確かだ。この先、一部の銀行や証券会社では、NISAのコストさえ賄えず、撤退リスクもある。
「リテールビジネスから撤退し、他の分野に経営資源を集約することも選択肢の一つ」(金融庁「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について」2023年6月30日)と金融庁も撤退を促す始末だ。
銀行や信金の場合、個別株式の取扱いがない分、顧客の選択肢は限られることになる。この点に罪悪感をもつ銀行員もいる。デジタル化が進むなか、合従連衡や店舗統廃合で対面サービスが続く保証もない。だから「下手に勧誘もできない」と嘆く真面目な銀行員の声も聞こえてくる。