誰も経験したことがない降り方だった。12年7月の九州北部豪雨では、100ミリ超の雨が4時間近く降った。11年9月の台風12号では、1週間足らずに半年分の雨が降った。不気味に増え続ける豪雨のリスクとは――。(前編)

680万立方メートルの土砂が「塞き止め湖」を形成

奈良県十津川村
(1)逆流した段波で破壊された長殿発電所。
(2)折立橋の落橋で村は孤立した。
(3)深層崩壊した赤谷の様子。地下水路を造り塞き止め湖の越流を防いでいる。
(4)村営住宅2棟が流され、2人が死亡、6人が行方不明となった野尻地区の航空写真。流出土砂が川を塞き止め、その後に発生した段波に襲われたとみられている。

不穏な場所だ。乾き切った粘土質の土塊が続く道の向こうに、緑色の水を湛えた湖があった。川の対岸の山腹は暴力的な自然の力によって削り取られており、赤茶けた地肌の表面を水が細く流れ落ちている。硬く乾いた足元の地面はどこか熱を帯びたように弱々しく、足を進める度にじゃり、じゃり、と音を立てる。ここではまだ「崩れ」が治まっていない。山が足元でそう囁くかのように。

奈良県吉野郡十津川村――その上流域・五條市大塔町にあるこの赤谷と呼ばれる場所では、11年9月の台風12号によって大規模な深層崩壊が発生した。「山そのものが動いた」とも表現されるこの崩壊は、高さ約1.1キロメートル、幅450メートルに及んだ。流れ出た680万立方メートルの土砂は熊野川の支々流・河原樋川に覆い被さり、上流に巨大な塞き止め湖(土砂ダム)が形成されたのである。