偏頭痛発作と天候の関係
では、関節痛ではなく、頭痛ではどうでしょうか。2024年の「片頭痛に天気が関係するかどうか」という総説では、片頭痛は気圧や湿度や風に関連している可能性があるものの研究結果に一貫性はなく、片頭痛発作に対する天候の影響は約20%だろうとしています(※2)。関節リウマチと同様、個人差が大きいようです。
日本で行われた研究でも、同様のテーマが取り上げられています。2023年の「スマホアプリとAIを用いた天候が頭痛の発生に与える影響の調査:後顧的観察横断研究」では、匿名化された4000人超のスマホアプリユーザーの頭痛記録と1時間ごとの気象情報を分析したところ、低気圧、高湿度、降雨量の増加、6時間前と比較した気圧の低下、当日朝6時の高気圧、翌日の低気圧などが頭痛発生と関係することが示されました(※3)。単に気圧が低いことだけではなく、気圧の変化も関係しているようです。厳密には「アプリが気圧の低下を表示したから、ユーザーが頭痛を記録しやすい」といったバイアスを排除できていませんが、これまで言われてきた経験的な片頭痛の悪化要因と一致しています。
※2 Whether Weather Matters with Migraine
※3 Investigating the effects of weather on headache occurrence using a smartphone application and artificial intelligence: A retrospective observational cross-sectional study
ロキソニンは雨の日に売れる
同じく日本の研究で、2015年の「天候と頭痛の発症:頭痛薬購入に関する大規模研究」では、主に頭痛に使われる鎮痛薬・ロキソプロフェン(代表的な商品名はロキソニン)のドラッグストアにおける売り上げと気象データが分析されました(※4)。
雨天か晴天か、平日か休日かで客足に差が出るので売り上げそのものではなく、一般医薬品全体に占めるロキソプロフェンの売り上げ割合を調べました。その結果、ロキソプロフェンは前日と比較して、気圧の低下、湿度の上昇、降水量の増加があった日によく売れることがわかりました。「雨の日には頭痛が悪化するのでロキソプロフェンの売り上げが上がるのだろう」というわけです。多くの被験者に頭痛の発生を正確に記録してもらうのは大変ですが、代わりに頭痛薬の売り上げを使用したところが、この研究の工夫です。
一方、天候と症状には関係が見つからなかったという研究も多数あります。多くの人が主観的に感じているほどには、天候と症状の関係は強くないようです。でも、特定条件で関係性が認められないからといって、他条件で気象病が起きることを否定できません。総合的に見ると、天候によってさまざまな症状が引き起こされてしまう患者さんは確かに存在します。一部に天候とは無関係なのに関係があると誤認している患者さんがいたとしても、患者さんが感じている苦痛は本物であり、決して気のせいなどではありません。
※4 Weather and headache onset: a large-scale study of headache medicine purchases