問題を複雑にするパラメータ
さらにはパラメータ(変数)の多さも問題を複雑にします。天候は雨だとしても、気温や湿度や気圧といった複数のパラメータが変化します。「わずかな気圧の変化が、症状を引き起こすのか」というのは気象病に対する代表的な懐疑的意見ですが、現実には気圧だけが変わるわけではありません。他の数値も変わります。
さらに雨の日には「濡れたくなくて外出を控えた結果、運動不足に陥って関節痛が悪化しやすい」「じっと座っていることが多くなり、いつもより痛みに気づきやすい」「雨が降っていることで気分が落ち込んで、痛みを感じやすい」といった間接的な要因まで考慮すると、厳密な証明はほぼ無理だろうと言わざるを得ません。
気象病のメカニズムについては、さまざまな仮説が提示されています。膝の痛みに関していえば「関節を包む関節包が気圧の低下で膨らみ、周囲の血管や神経を圧迫する」という仮説もあれば、「炎症物質であるヒスタミンが関係している」という仮説もあります。動物実験も行われており、「内耳に気圧のセンサーが存在することが示唆される」とする研究もあります。ただし、動物実験のエビデンスレベルは高くありません。動物と人はさまざまな点で異なるからです。
関節リウマチの痛みと天候
もちろん、人の集団において、天候と症状の関係を調べた研究も多数あります。ただ、その結果は一貫していません。いくつかをご紹介してみましょう。
まず、2011年に報告された「雨は本当に痛みを引き起こすのでしょうか? 気象要因と関節リウマチ患者の痛みの重症度との関連性の系統的レビュー」という研究です(※1)。論文のタイトルからも、医学界で雨と痛みの因果関係が議論になっていることがわかります。9件の研究を統合した結果、集団レベルでは気温、湿度、気圧のいずれのパラメータも痛みの重症度とは関連していないことが示されました。
ただし、個別の分析では、少数(25%未満)の患者さんは天候に敏感であるようです。天候に反応する患者さんは少数であることに加え、個々の患者さんで反応するパラメータが異なるので、全体では差が出ないようです。先行研究において慢性疼痛患者の70%近くがアンケートで天候の変化が痛みに影響すると答えていますが、その一部は誤認によるものであることが示唆されています。