受験と関係のある授業は皆無
筑波大学附属は進学校だったので、受験に沿って授業を進めていくというイメージを皆さんお持ちかもしれませんが、まったく違っていました。むしろ受験と関係のある授業は皆無だったといえます。
具体的にどのような授業を受けていたのかというと、ひと言でいえば「先生が好きで、教えたい授業」です。
たとえば、地理の授業では教科書はいっさい使わず、ただただ地図を読んだり、あるときには地図に関する新書を1冊読んでレポートを書いたりもしました。
通常、高校の授業では、教科書を万遍なく学ぶものです。新書を1冊読んでレポートを書くというのは、おそらく大学レベルの授業です。そのおかげで地図に関しては、異常に詳しくなりましたが……。
当時の私は、「こんなことをやっていてもまったく受験の役に立たないのでは?」と不満に思ったこともありました。ですがいま考えれば、当時の「深掘り型の学習」が私の学びのレベルを上げてくれたのだと実感しています。実際に、このとき取り組んだ深掘り型の学習が思考の深みへ自分を導いてくれ、幅広い知識の獲得につながっていきました。
深掘り学習と次の項で紹介する融合学習による学びこそが、その後に大学で勉強していくうえで、必要不可欠な勉強法だったと気づくことができたのです。
倫理・社会の先生によるすごい授業
高校時代、常々感じていたことがありました。「科目というのは、人工的につくられたものに過ぎないんだな」ということです。つまり、科目の区切りはそれほど重要ではないということ。
それを教えてくれたのが筑波大学附属高校の倫理・社会の先生でした。おそらく、科目の垣根を越えて「これは絶対に教えておきたい」と思うことがあったのでしょう。
その先生は教科書をほとんど使いませんでした。たとえば、明治時代以降の民主主義を学ぶという授業を延々とやっていた時期があったのですが、いろいろな登場人物が出てきました。ほとんど知らない人だらけで、私を含め生徒の多くは戸惑いを隠せませんでした。
皆さんは、植木枝盛という歴史上の人物をご存じでしょうか。植木枝盛は土佐藩出身の思想家・政治家で、板垣退助に影響を受け、自由民権運動の理論的指導者として立志社・自由党を結成するなどで活躍した人物です。
植木枝盛については名前を知っている程度で、通常はそれほど詳しく教わらないでしょう。ですが、その先生は授業のコマを3つも4つも使って、ひたすらこの植木枝盛という人物に関する授業をするのです。