言葉は抽象的でも、ビジョンの中身は現実的に
「僕らはここで未来を創っているんだ。僕らといっしょに宇宙に衝撃を与えてみないかい?」
――スティーブ・ジョブズ
例えばスティーブ・ジョブズが社員に語りかけたように、共感型のリーダーは、他者を自分のビジョンに引き込む不思議な力があります。自分は世界を変えられる、少なくとも社会に良い影響を与えられると心から信じています。
組織の変革を実行するリーダーがなすべき最初の仕事は、組織の存在意義や組織が向かうべき方向性の設定です。つまり、組織のミッションやビジョンを明確化することです。変化が激しく複雑性が増す現代社会においては、意思決定の拠り所となる揺るぎないミッションやビジョンが必要です。
気をつけないといけないのが、ビジョンを描く際には単に目標を設定すれば良いのではないということです。ビジョンの先に「こんな良いことが待っている」と語らなくてはならないのです。
また組織のビジョンはリーダーの個人的なビジョンではいけません。組織に所属する全員にとってのワクワクするビジョンでなければなりません。フォロワーの熱意を引き出し、アクションを起こさせ、彼らが共感し、自らの仕事に意義を見出せるものでなければなりません。
地に足が着いた、手の届きそうな現実的なものであり、組織のメンバーに夢を持たせるようなビジョンが必要です。これを設定できるリーダーこそが、人々を引きつけ、魅了し、支持を獲得できるのです。
スターバックス時代に掲げたのは「感動の深さ」
「適切なビジョンをつくることで、リーダーは未来そのものに影響を与えられるのである」
――ウォレン・ベニス
「(目標とは)今のところ手が届かないが、そこに向かって努力を重ねるべきものであり、前進すべき方向であり、そのようになるべきものである。創造力を刺激し、今はまだやり方のわからないことに人々を挑戦させ、それに向かって進んでいることで誇りを持っていられるようなものだ」
――ロバート・K・グリーンリーフ
スターバックスの社長をしている時に、スターバックスのミッション(「人々の心を豊かで活力あるものにするために」)は、本当に心から素晴らしいミッションだと思っていました。私なりにこのミッションをより達成するには、どうしたら良いのかを真剣に考えました。
それは「より多くの人の心をより豊かにすることができたら、よりミッションが達成できるのではないか」と考えました。図表1の概念図を見てください。横軸にお客様数、縦軸に豊かさ(=感動の深さ)を置きます。現在が左下のボックスAだとします。