2日連続で暴行され、脳ヘルニアで死亡
それはあっけない閉廷だった。
2日間の裁判員裁判を傍聴した私は、脱力する思いで席を立った。
津地裁で開かれた4歳児虐待死事件の一審。2月20日から始まった裁判員裁判は、責め立てられた母親が泣きながら反省する姿を無理やりに見せられた、そんな後味の悪い終わり方だった。
その後、2月26日に検察は懲役8年を求刑。判決は3月8日に言い渡される。判決を前に、本稿では裁判で違和感を持ったわけを考えたい。
まず、事件を振り返ろう。
事件は昨年5月の朝に三重県津市で起きた。前日深夜、救急車の中で女児は心肺停止に陥り、搬送先の大学病院での手術は成功したものの、かすかな命の灯は消えた。死因は、2日連続で母親が振るった暴行による脳ヘルニアだった。低体重や身体にこびりついた垢など日常的な虐待の形跡もあった。6月30日、三重県警は母親を傷害致死罪の容疑で逮捕した。
政府が虐待の調査(こども家庭審議会児童虐待防止対策部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会)を始めて20年。行政はさまざまな施策を立ててきたが、悲しいことに虐待死亡事件は続けざまに発生している。
孤立出産→赤ちゃんポスト→再び母親の元へ
この事件も、児童相談所や保育園が母親による虐待を把握していたことが報道で明らかになった。県内の児童相談所を統括する児童相談センター長は釈明に追われ、一見勝之県知事は会見で「子どもの命を守れなかったことは痛恨の極み」と涙ぐんだ。
だが、虐待やDVに依存性が潜んでいることは研究者によって解明されている。そして親が子を虐待する背景には必ず理由が隠れていて、また、虐待を繰り返してしまう行為に親自身も苦しんでいる。それらの親、特に母親が抱えさせられる問題は、私たちの目に見えないのではない。多くの場合、私たちは見ようとしていないのではないか。
この事件でも、母親は重要なシグナルを発していた。母親は孤立出産していたのだ。
孤立出産とは、医療従事者の立会いなく妊婦が自宅や公園、路上などで出産に至る行為を指し、母子ともに命の危険が伴う。
加えて赤ちゃんは生後1週間で母親の手で熊本市の「こうのとりのゆりかご」(医療法人聖粒会・慈恵病院が運営する、通称赤ちゃんポスト)に預けられ、のちに母親の元に戻されるという数奇な運命を辿っていた。なぜその赤ちゃんがたった4歳で命を絶たれることになったのか。私は裁判傍聴に訪れた。