なぜ犬は「人気のペット」になったのか。麻布大学獣医学部の菊水健史教授は「犬は人間にかわいがられる術を身につけてきた。たとえば飼い主との再会ではうれし涙を流すが、犬の涙は庇護欲を引き出す効果がある」という――。
※本稿は、菊水健史『最新研究で迫る 犬の生態学』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
犬は人から見られているとかわいい顔をする
飼い主の前では「マテ」ができるのに、飼い主が部屋から出ていくとやめてしまう。辛抱が効かないと思われるかもしれませんが、これは近縁種であるオオカミは持っていない、犬ならではの能力の証でもあります。
犬は、人の視線に対してとても敏感。目の前に餌を置いて待たせる実験では、人が見ているときより見ていないときの方が、餌を食べてしまうことが多くなるという結果が出ました。
これは、人の視線やその向きから、自分に対して注意を向けているかどうかがわかるということを意味します。言葉が通じない者同士が円滑にコミュニケーションを取るためには、視線を感じ、シグナルを受け取る力が欠かせません。スムーズな共生生活のために、人の視線により敏感な犬が選ばれ交配させられてきたとも考えられます。
ちなみに、2017年にイギリスの大学で行われた実験によると、犬は人から見られていると、かわいいしぐさ(尻尾を振る、かわいい表情をするなど)をよりたくさん行うこともわかっています。