出かけていた飼い主が帰ってきたらうれし涙を流す

人の場合、眼球を守るための生理的作用としてだけではなく、悲しみや喜びによって感情が揺さぶられたときにも涙を流すもの。犬もまた感情的になったときに涙を流すことが、最近の研究で明らかになっています。

飼い主と犬の再会場面において犬の涙の量を調べた研究結果によると、他人との再会時では変化がないものの、信頼する飼い主との再会時には涙が増え、犬も「うれし涙」を流すことがわかりました。

また、犬の涙が人に与える影響についても興味深いことがわかっています。犬に人工の涙を点眼した写真と点眼前の写真を79名の人に見せ、どのような印象を持つかを比較。その結果、点眼後の写真を見たときに「犬を触りたい、世話をしたい」といったポジティブな気持ちを犬に対して持つことがわかったのです。つまり、犬の涙は、飼い主の庇護欲に働きかけてお世話を引き出すもの。

犬が身につけた「あざと顔」については前述の通りですが、同じように犬の涙も、長い共生の歴史において有利に働いたと考えられます。

【図表4】飼い主との再会場面において犬の涙の量が増加した
最新研究で迫る 犬の生態学』(エクスナレッジ)より

子犬時代の名残で飼い主の口元を熱心になめる

犬の祖先である野生のイヌ科動物の子どもは、空腹のときに母犬の口元や顔をなめました。これによって母犬は、胃の中からある程度消化された状態の食べ物を吐き戻して与えていました。この本能的な行動の名残りから、子犬のような甘えや親愛の気持ちを持って、飼い主の口元をなめると考えられます。

また、それが転じ、今ではちょっとした挨拶やふれあいの代わりとして口元をなめる場合も。このように、ある行動が進化の過程でコミュニケーション機能を持つようになることを「儀式化」といいます。

その他、単に食べ物のにおいにつられてなめたり、口元のにおいから様子をうかがおうとしてなめることも。いずれにせよ信頼の証ではありますが、あまりにしつこい場合は要注意。唾液を介した人獣共通感染症のリスクを減らすためにも、避けるべきでしょう。