「かかりつけ医→大病院」へ交通整理する役割がある

ではなぜこのような制度があるのかを説明しよう。

医療機関は、その機能と規模によって地域で担う役割が異なっている。例えば街場の診療所では、がんの手術や心筋梗塞のステント留置術などはできない。これは言うまでもないことだろう。一方、カゼやちょっとした切り傷でわざわざ大学病院を訪れ、何時間も待って専門医に診てもらおうと思う人も皆無といえるだろう。

このような極端な例であれば誰でも納得できる話なのだが、どういった場合に大きな病院を受診すべきか、どのような症状なら近所のかかりつけ医で対応可能なのか、自己判断できず迷うケースも現実問題として少なからず存在する。

そうした場合に「心配だからとりあえず大きな病院に行こう」ではなく「まずはかかりつけ医へ」そして「かかりつけ医が必要と判断した場合は大病院へ紹介」という、いわば患者さんの交通整理をすることを目的としておこなわれているのが、この選定療養費の制度なのである。

本来はかかりつけ医で十分対応可能なものであるにもかかわらず、「心配だからとりあえず大病院へ」という人たちが大病院に殺到することで診療体制が逼迫ひっぱくしてしまうと、大病院でしか治療できない人たちに必要かつ十分な医療が提供できなくなってしまう。つまりこの施策は、地域の医療体制を守り維持しようとするためのものともいえる。

「7700円救急車」がはらむ3つの問題点

今回の松阪市の施策も、このスキームが応用されたものなのだ。前掲の3病院は、この地域では「最後の砦」となる医療機関であり、これらの高次医療機関にカゼやちょっとした切り傷の患者さんが救急車で殺到してしまうと、その本来の機能が十分に果たせなくなってしまう。よって、他の病院や診療所で対応可能な疾患の患者さんについては、受け入れを制限するという意図なのだ。

その理屈は理解できた。だがこの施策がじっさいの現場でトラブルなく運用されるかどうか。それにはいくつかの「条件」がある。そこで、私の頭に浮かんだ疑問と問題点を列挙してみることとしよう。

①救急隊員の目から見てあきらかに入院にならない軽症者であった場合も、これらの3病院にとりあえず搬送となってしまうのか?

例えば、足先に熱湯をかけてしまってヤケドを負ったケース。どうすればいいのかわからず、119番に通報してしまった場合はどうか。これは救急病院に搬送されてもあきらかに入院にはならないケースと考えられるが、通報をうけた指令センターの担当者は、通報者にたいしてどのような対応をするのだろうか。