「冗談じゃない。医者をここへ連れてこい」とならないか

医師による医学的な判断が、患者さんの自己負担の有無に直結することになるわけだから、その判断に納得できないという人が医師に直接抗議したいと言い出しても、なんら不思議はない。「患者のくせに医者の判断に文句を言うな」としてきた“昭和時代”と、今はまったく違うのだ。

「医師の判断なので、7700円を頂戴します」と受付事務が伝えて選定療養費分を請求した場合に、「冗談じゃない。ちょっと、その医者をここへ連れてこい」となる事態の発生は容易に想像がつくのである。

夫婦と話をする病院の受付事務員
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治療や病状にたいする説明は、もちろん医師の仕事だ。これにはいくら時間をかけても構わない。だが、自己負担分が増えることについての説明まで医師にさせるのは間違いだ。もし今回のスキームの中で、この説明まで医師にさせるというのであれば、救急医療の逼迫を防ぐためとされたこの施策が、逆に救急医療現場に大きな負担を押しつけることになるだろう。

④そもそも7700円という費用を徴収することで、救急車の不適切利用は減らせるのか?

救急車のトンデモ利用の例としてあげられる「蚊に刺された」や「タクシーがつかまらないから」といったものは、確かに減るかもしれない。ただ、このような不適切利用を7700円という自己負担によって抑止しようという策略は、金銭的な余裕のない人については一定の“効果”は期待できようが、「カネさえ払えばいいんだろ」という思考をもつお金持ちの行動にはなんらの抑止力も発揮することはないだろう。

有料化しても根本的な解決にはならない

そもそも、先述した「地域医療を支える200床以上の大きな病院を、かかりつけ医療機関等の紹介状がなく受診した際に、通常の保険診療の自己負担分に上乗せして医療機関が請求する」という選定療養費にもいえることだが、この「自己負担金でハードルを作って受療行動を操作する」というスキーム自体が、公平性という観点から妥当とはいえない。同じ金額であっても、財力のある者とない者とでは、ハードルの高さとしては同じではないからだ。

「そうは言っても『救急車の不適切利用をやめましょう!』と何度言っても市民が聞いてくれないのだから仕方ないのだ」といった意見に突き動かされるようにして、自治体がこうした安易ともいえる方策に走りたくなる気持ちもわからないではない。

だがこれは根本的な解決策にはなり得ない。「カネさえ払えば不適切利用しても構わない」という誤ったメッセージの発信にもなりかねないからだ。やはり不適切利用を防ぐという目的を達成するには、適正利用の継続的な周知徹底をはじめ、♯7119のような自己判断できない人の相談先を充実させるといった正攻法しかないだろう。