本当は令和も昭和もどっちもいい

一方、「ふてほど」は底抜けに明るい。野蛮だけど自由で開放的な昭和を礼賛し、コンプライアンスに縛られてハラスメントに怯える令和をディスる……だけではないところもいいと思っている。

デフォルメしてコミカルに盛ってあるし、1周回ってどっちもどっちだからだ。

昭和がそんなに開放的だったかというと、そうでもない。「男にとっては天国」なだけで、女にとっては居心地の悪さや息苦しさがあったから。一方、令和がそんなに神経質でがんじがらめかというと、そうでもない。昭和に比べれば、女が主語を取り戻し、権利を主張できるようになってきたから。

昭和に思春期で苦虫噛み潰した人間からすれば、多様性を謳う令和のほうが平穏で自由でずっといい。でも令和に息苦しさを覚えている人は、直情的で野蛮な昭和を新鮮と感じるのかも。

どっちにも長所短所があり、真ん中の平成三十数年に何があってこうなったのかを答え合わせしたくもなる。おっと、そろそろ中身の話を。

新元号「平成」を発表する当時の内閣官房長官・小渕恵三
新元号「平成」を発表する当時の内閣官房長官・小渕恵三(画像=人事院ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

適材適所でハマるキャスティング

阿部サダヲが演じる主人公・小川市郎は、昭和の典型的な体育教師で、娘に過干渉なシングルファザー。傍若無人で直情径行なキャラでも、威圧感・威厳・渋さ知らずの阿部が演じるとなんだかかわいい。甲高い声で罵詈ばり雑言を吐くも、一言一句しっかり聞き取れる滑舌の良さ。歌って踊って罵れる適役である。

ここんとこ不気味で不穏な役(映画『死刑にいたる病』やNHKドラマ「空白を満たしなさい」)が続いたので、縦横無尽に暴れるかわいいおじさん役を微笑ましく見守れる。

そんなおじさんの娘・純子を演じるのは河合優実。父の罵声に罵声で返す姿も、性欲にわりと素直な感じも、つっぱっていても実はウブで父親思いなところも、全部愛おしい。「17才の帝国」「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」「神の子はつぶやく」と特にNHKのドラマで幅広いポテンシャルを見せつけた、鈍牛倶楽部期待の星だ。このふたりは昭和在籍の親子ね。

一方、令和の親子もハマリ役。社会学者でフェミニストの母・向坂サカエを演じるのは吉田羊。昭和男・市郎の暴言に呆れながらも、研究対象として観察する冷静さ。うっかり昭和マインドに毒されかけても、羊姐さんの淡々としたツッコミが引き締めてくれる。

そんな羊姐さんが心配する一人息子・キヨシを演じるのは坂元愛登。「100万回言えばよかった」(TBS)では佐藤健の少年時代を、「unknown」(テレ朝)では田中圭の少年時代を演じたが、今回は性欲の塊だが配慮もある中2男子を好演。今回の役で幅が広がり、引く手あまたになる予感。