ティラノサウルスのウンコには骨のかけらが大量に含まれていた

恐竜のウンコ化石研究の第一人者に、アメリカのカレン・チン博士がいる。博士はこれまでに多数のウンコ化石論文を発表しており、ウンコ化石を使って恐竜の生活や生態系を見事に解き明かしている。ウンコは健康のバロメータと言われるくらいだから、たくさんの情報が詰まっているのだ。ここでは、ウンコ化石の成分を調べることで、どういうことが分かるのか、簡単に紹介しよう。

まずウンコ化石を調べることで、その恐竜の食生活を垣間見ることができる。例えば、この後紹介するが、ティラノサウルスのウンコ化石には骨のかけらが大量に含まれていた。その割合はウンコ全体の30~50%にもなる。ティラノサウルスはエサの骨を砕き、骨まで飲み込んでいたのだ。

骨片からディナーになった恐竜を特定するのは困難だが、鳥盤類恐竜の可能性が考えられるという。ウンコ化石や噛み痕が付いた植物食恐竜の骨化石の発見から、ティラノサウルスは獲物に骨ごとかぶりつき食べていたことは間違いないだろう。

腐った木、カニの破片…意外な構成要素から推測できること

アルバータ州で見つかったティラノサウルス科のウンコ化石には、驚くべきことに食べた肉の痕跡が保存されていた。顕微鏡で観察すると、筋繊維という筋肉の軟組織が確認できる。普通、肉は消化・吸収されるはずだが、ウンコとして残っていたということは、消化が不完全だったか、排出までの時間がかなり短かったことを示しているのかもしれない。

植物食恐竜のマイアサウラのものと思われるウンコ化石には、針葉樹の木質部が大量に含まれていた。最大で85%にもなるというから、ウンコの構成要素の多くが硬い幹の破片である。ただし、木片には細菌による分解の跡が認められたから、腐敗した木を狙っていたようだ。

なぜ、かれらは栄養価の低い木質部を食べていたのだろうか。これはかなり変わった習性である。分解が進行中の腐った木だったらある程度消化しやすいから、エサの範疇に含まれたということなのかもしれない。いつも食べていたのか、その時だけだったのかは分からない。

このような木片が混じったウンコ化石では、ときおりカニなどの甲殻類の破片が見つかることがある。なぜ、植物食恐竜が甲殻類を食べたのだろうか。チン博士は、エサの種類が季節によって変化し、甲殻類を食べるタイミングもあったのではないかと考えている。

恐竜の繁殖行動を研究している私から言わせれば、カルシウムを補うために食べていた、と解釈することもできるのではないかと思っている。卵殻形成のためにはカルシウムが必要であるため、現生鳥類でも積極的にカルシウムを補給すること(例えば、カタツムリの殻を食べるなど)が知られている。

木片といい、甲殻類といい、ウンコ化石からしか分からない、奇妙な食生活だ。ウンコ化石は食べたものの直接的な証拠を示してくれるという点でとても重要である。