アカウミガメの保護か、ドーム球場建設か

馬塚氏は「アカウミガメの産卵地である海岸のすぐ隣に大型ドーム球場を建設する必要性が全くわからない。もっと内陸部につくるべきである」と訴えた。

その上で、「2.2万人規模の大型ドーム球場にすれば、2000台以上の大規模な駐車場も整備される計画だ。夏場には多くの若者、家族連れが海岸に殺到するおそれがある」などと危惧した。

つまり、子ガメへの悪影響だけでなく、アカウミガメが産卵する砂浜を保全できなくなるとして、ドーム球場反対の理由を説明した。

今回の要望活動には、川勝知事ではなく、野球場を含む公園計画担当の勝又泰宏・県交通基盤部長が対応した。

勝又部長は「アカウミガメ保護に課題があることは認識できた。知事はいろいろな意見を聞いて判断するが、今回の情報を伝える」などと馬塚氏らの説明に理解を示した。

果たして、紫外線など人間の目に見えない光に反応してしまうアカウミガメ保護を優先するのか、それでもドーム球場建設を表明するのか、あるいはさらに結論を先延ばしにするのか……。2月県議会で、川勝知事の対応が注目される。

「ヤマトイワナ保護」を理由にリニアに反対する川勝知事

一方、同じ絶滅危惧種であるヤマトイワナはどうか。

川勝知事は「南アルプスの保全は国際公約である」として、JR東海のリニアトンネル静岡工区の着工を認めていない。

2014年6月、長野、山梨、静岡3県10市町村につながる南アルプスはユネスコエコパーク(正式には「生物圏保存地域」)に登録されている。

南アルプスを貫通するリニアトンネルは大井川の地下約400メートルを通過する計画だ。南アルプスに生息する水生生物のシンボルがヤマトイワナである。

全長30センチ前後の日本固有種で、大井川上流部だけでなく全国に生息するが、静岡県では絶滅危惧種に指定されている。

大井川ではヤマトイワナ、ニッコウイワナの2種とその交雑種が生息する。

大井川に生息するヤマトイワナとニッコウイワナ
写真=川嶋尚正氏提供
大井川に生息するヤマトイワナとニッコウイワナ

なぜ、ヤマトイワナが絶滅危惧種となったのか?

大きな理由の1つは、ヤマトイワナが大井川上流部の渓流釣りの対象であることだ。

50年以上前から減少の一途をたどったため、地元の静岡市井川漁協が1970年代後半から、静岡県の指導で、大井川に生息していなかった養殖のニッコウイワナを大量に放流した。

この結果、繁殖力の強いニッコウイワナがヤマトイワナを追いやり、またニッコウイワナとの交雑も進んでしまい、ヤマトイワナが消える原因となった。

さらに1995年、大井川源流部に二軒小屋発電所、赤石沢発電所が同時に稼働したことで、その周辺でヤマトイワナは姿を消してしまった。

JR東海のリニアトンネル建設に関係する大井川上流部支流の西俣川と東俣川には、二軒小屋発電所と導水路で結ぶ西俣ダムと東俣ダムが建設されたのだ。