「妻と離婚させて」「夫の不倫相手を殺して」「姑、早く死ね」

そこには「妻と離婚させて」「夫の不倫相手を殺して」「姑、早く死ね」「嫌な上司○○を遠くの支社に飛ばして」など、呪いの文言を書き連ねた絵馬が奉納されている。

空恐ろしい話だが、「縁切り」や「うしの刻参り」(いわゆる「藁人形」などの呪術)は、古来より存在する「闇の文化」である。このストレス社会において、縁切り寺への参拝は衰えることはない。願主にとって、「ガス抜き」になっている面は否定できない。

藁人形
写真=iStock.com/boommaval boommaval
※写真はイメージです

だが現代社会において、こうした絵馬のプライバシー情報はスマホで撮影され、SNSによって拡散される恐れがある。最近では、ハガキなどに貼られる「個人情報保護シール」で文面を隠した絵馬も散見されるようになった。ネットショップなどでは、絵馬専用の個人情報保護シールが販売されているほどだ。また、京都市の下鴨神社では15年ほど前から、個人情報保護シールを用意している。

先述の縁切り神社、門田稲荷では「重ね絵馬」を500円で販売している。絵馬をカスタネットのように重ねて、内側に願文を隠せるように工夫している。

法事や墓参りにおいても、不特定多数の目に個人情報がさらされる。多くの仏教宗派では、卒塔婆そとば供養をしている。卒塔婆とは、釈迦の遺骨(仏舎利)を祀ったインドの仏塔を模した木札のことで、死者の魂の依代よりしろである(魂の存在を否定している浄土真宗系宗派では卒塔婆供養はしない)。

卒塔婆は法事の際に墓石の背後に立てて供養する。墓参時には、小さいサイズの経木塔婆(水塔婆ともいう)を、竿石の前に立て掛ける。いずれも、故人の戒名や施主の氏名が書かれているだけで、さほど問題は起きないように思える。しかし、親族関係が良好ではないケースでは、この卒塔婆供養を巡ってしばしば、トラブルの種になる。

「兄の名前で卒塔婆が供えてあったが、妹の私は法事に呼ばれていない。なぜ、勝手に法事をしたのか」
「絶縁した兄が墓参りした形跡がある。いまどこで何をしているのか、(住職に)教えてほしい」

寺の住職をやっていると、たまにこんな訴えが寄せられることがある。本来は、親族関係の中で解決すべきことである。だが、不仲が原因でやりとりが不通になっているため、住職にこっそりと相手の情報を求めてくるのだ。むろん住職が勝手に親族の近況を教えたり、具体的な個人情報を伝えたりすることはできない。

お墓につき立てられた卒塔婆
撮影=鵜飼秀徳
お墓につき立てられた卒塔婆