「入選すればお金がいる」ので、お礼の金策に
東京学芸大学書道科を出て、師匠に就かずに書家になった大渓洗耳氏は1985年に出版した著書『戦後日本の書をダメにした七人』(日貿出版社)の「書道界の悪しき体質」の項で、次のように糾弾しました。
書道界というところは師匠というのがいて、師匠のいうことは絶対である。師匠のいう通り勉強して師匠の手本を貰って入選すればお金がいる。(中略)お礼のお金を展覧会の前に作らなければならない。毎年ということになると田舎の実家が山でも持っていれば別だが、そうでなければ積立でもしなければとうてい無理である。(中略)駆け出しが二十人くらい集まって鳩首相談の結果、「無尽」をすることになった。毎月積み立てて今年は誰と誰、来年はお前の番だなどと、お礼をさきに作るなんて不思議なことをやる。なんとかしなければいままで掛かった金や入選回数が無駄になる。やりくりをつづけて二十年もすると少し名前が売れてくる。もう抜けられない。抜けたら一人では立ちゆかない。ヤクザの世界のようなもんである。
「金を使っているなんて人には言えない」
上下関係の厳しさと金権体質を的確に表現しており、さらに次のようにも書いています。
展覧会のたびに右往左往していそがしい。(中略)金を使っているなんて人には言えない。ずっとこれから金がいる。偉くなる人はほんのひと握りである。言いたいことも言えない。さりとて脱会もできない。脱会したら何も残らない。
日展第三者委員会は、2013年12月5日に報告書を公表し、朝日新聞が報道した日展顧問である「丙氏」について、以下のように責任を問い質しています。
丙氏については、長年、書道界において指導的立場にあり、かつ日展においても、理事・常務理事・顧問と重責を務め80歳代後半に至るもなお日本芸術員会員として、日展書の頂点に君臨しており、同氏を師と仰ぐ有力な弟子達もあまたいて、日展審査においても同氏の考え方や精神が標榜され発言される現状をみると、丙氏の具体的な介入がなかったと否定し去ることはできない。