エビデンスがないのに医者が患者に薬を強制する日本
医学の世界で30年以上(日本では1990年代後半以降)トレンドになっているものにEBMというものがあります。
これは「Evidence-Based Medicine」の頭文字をとったもので、「(科学的)根拠に基づいた医療」とよく訳されています。
たとえば、血圧の薬を飲んで血圧を下げることは可能ですが、その結果、実際に脳卒中や心筋梗塞を防ぎ、どの程度、死亡率を下げたかを知ることが大切ですし、その根拠を求めたうえでの医療を行うべきだという考え方です。
血圧については、アメリカにかなりよく知られる大規模調査のデータがあります。70歳で最高血圧が160mmHgの人についてのものですが、降圧剤を飲まなかった群は6年後に10%の人が脳卒中になりましたが、降圧剤を飲めばそれが6%に減ったというものです。
これが降圧剤は有効だというエビデンスになります。ちなみに日本では血圧の薬を飲んだり、血糖値を下げる薬を飲んだりした際、何年後にどの病気がどのくらい減ったかという大規模比較調査がほとんどありません。
アメリカでは、エビデンスがない薬には保険会社が金を出してくれません。だから製薬会社が必死になってエビデンスを作る。
ところが、日本ではエビデンスがないのに医者が患者に薬を強制して、大規模比較調査をやっていない状態が放置されているので、膨大な公的医療費の無駄遣いになるのに薬の使用が続けられています。
薬を飲まなくても90%の人が脳卒中にならない
日本人とアメリカ人では食生活も疾病構造(アメリカでは死因のトップは心疾患)も違うのに、アメリカのエビデンスがそのまま流用されたりもします。
70歳の人は降圧剤を飲んだほうがいいというエビデンスがある、それが通常の解釈ですが、別の見方もできます。薬を飲まなくても90%の人が(6年間に限ってかもしれませんが)脳卒中にならないのです。
薬を飲んでも飲まなくてもほとんどの人は脳卒中にならないのだとしたら、なってしまったときは運が悪かったと思うことにして、薬を飲まないという選択もあります。薬を飲んで体調が悪くなる人は、元気に過ごすために薬を飲まないと決めてもいいのではないでしょうか。
さらに問題なのは、薬を律義に飲んでいても、その中の6%の人が6年以内に脳卒中になるということです。
要するにいくら医学が進歩しても、自分の運命や体質には勝てないのです。
だから私は日本でもエビデンス、とくに死亡率が下がったかどうかのエビデンスを取るべきだということを主張していますが、それにこだわりすぎる必要もないと思っています。