アイデアに価値はあるか
いずれにせよ、暗黙のうちに製品に価値が内在すると考えているからこそ、学生のアイデアそのものに新奇性があったり画期的であったりすることを期待してしまうのだと思う。そして、ユーザーのアイデアが総じて平凡であることに失望したり、逆に、すごいアイデアの場合には模倣されたりしてしまうのではないかと危惧することになる。ユーザー参加型製品開発の可能性の一つは、こうした考え方を相対化するところにある。
少なくともSカレを見る限り、非凡なアイデアが最初にあって、それが製品の具体的な形をとるというわけではない。むしろ、平凡なアイデアがネット上でのコミュニケーションや実際の開発プロセスを通じてブラッシュアップされていく、そんなプロセスであるようにみえる。最初から画期的なアイデアがあるというよりは、画期的な製品になっていくという感じだろうか。
このプロセスに参加し、このプロセスを共有するという点にこそ、Sカレやユーザー参加型製品開発の価値を見出すことはできないだろうか。そこで得られるものは、そこに長くいなければ模倣できないし、たぶん、人によって手に入るものも異なりそうだ。例えば、マイナビがSカレに最も期待しているのは、学生が成長すること(もちろん、ひいては就活で多くの企業が求める人材になること)であるとする。これは典型的に時間のかかる作業である。
さらにこの点について、マイナビの期待としては、もっと参加学生全体がSカレにコミットできるようになればいいのではという。さらに、自分たちがSカレの活動に入り込み、もっと参加チームとやり取りをすることについても肯定的であった。マイナビでは、もともと、学生とともに一緒に何かをできればと考えていたが、フルコミットメントで何ヵ月も付き添うわけにもいかない。そういう中で、Sカレという場に注目したのだという。
これらの指摘は、それぞれ重要であるように思われる。第一に、学生と企業のやり取りは、これまでできるだけ行わないという方針でSカレは進められてきた。これは、企業への過度の負担を考慮してきたからである。けれども、むしろこの負担こそが、企業側に提供できる大きな魅力なのかもしれない。
前回アマゾンと楽天の比較を行ったが、楽天は、既存のショッピングモールが店舗とユーザーのコミュニケーション(特にはクレームを考えていたのだろう)に時間をとられなくてもいいように、自分たちがその業務を担ってきたという点をむしろ問題視した 。そして、店舗が直接ユーザーからのコメントに対応するという仕組みを導入したのであった。結果として、楽天に参加した店舗はユーザーの声を直接聞くことができるようになるとともに、実際には多く寄せられることになった応援の声に後押しされて、自らのビジネスを確信し、また成長していった。Sカレやユーザー参加型製品開発においても、同様の可能性を見出すことができるのかもしれない。
第二に、学生間のコミュニケーションという場合でも、今のところ開発過程はオープンといえども実質的に閉じており、他の大学チームとのコミュニケーションはほとんどない。これは、内々のコミュニケーションばかりになってしまうと、かえって外部の視聴者からは敬遠されるのではということを危惧していたわけであるが、むしろこうした内側の活動を表面に出しながら活性化させることで、その活動に気づき、さらに入ってくるユーザーを増やしていくことができるのかもしれない。
この点については、例えばユーザーの、投票するなどの参加行動は、塊として生じるという研究もある(山下裕子「エレファントデザイン」『一橋ビジネスレビュー』2002 )。ようするに、一定規模で賑わっていることが可視化されることで、さらに投票行動が促進されるタイミングがあるということだろう。好循環を生み出すきっかけをつくっていく必要があるということになる。