マイナビの場合

マイナビは、2011年のSカレから参加し、今年は2回目の参加となる 。昨年度のテーマは「学生お役立ちアプリ」であり、提案された中で最優秀賞となった関西大学岸谷ゼミの商品企画「はじめての名刺交換(後に製品名を『マイナビ就活名刺』とする)」は、現在開発がほぼ完了し、そろそろ積極的なプロモーションを始めようかという段階になっているという。

「マイナビ」
http://job.mynavi.jp/

マイナビの場合、スマートフォンのアプリそのものが自社の主力製品となるわけではない。マイナビは周知のとおり学生の就職支援サービスを提供しており、主要なクライアントは企業である。アプリ企画は、学生にサービスの認知を広め、就活の際に利用してもらうためのプロモーションツールとしての位置づけを持つ。

Sカレとの親和性は高い。言うまでもなく、Sカレには多くの学生が参加するからである。また、参加学生は基本的に3年生であり、Sカレ終了後にまさに就職活動が始まる。このとき、Sカレに参加した学生の多くはマイナビに対して認知以上に知識を持つことになるとともに、彼らの活動結果が実際にアプリになるとすれば、さらに学生に対するプロモーションになると期待される。

昨年度製品化されることになった「マイナビ就活名刺」は、そうした就職活動において、学生が他の学生と知り合うことを目的としたアプリである。アプリには自分の所属や連絡先を記入することができ、それを名刺としてデザインすることができる。実際の名刺交換シーンでは、名刺交換のアクションを相互に同じタイミングで行い、その動作をGPS機能で範囲を限定することにより相手を特定し、相手の名刺を自分のアプリに取り込む。これでアプリ上の名刺交換が可能になり、あとは例えば同じ企業への就職を目指す仲間として連絡が取り合えるようになる。

もちろん、就活シーンでは、こうした学生のやりとりは日常的に行われている。就活の会場で知り合った学生同士で情報交換を行うというわけである。しかし、その為には偶然も必要であるし、知らない隣の人に声をかける勇気も必要になる。「マイナビ就活名刺」は、そうした障壁を引き下げ、容易に学生同士がつながることを促進させるという。

Sカレでは、もともとオブザベーションという開発のための調査手法が奨励されてきた。これはエレファントデザインが得意とする方法であり、ユーザーの日常的な製品サービスの利用風景を緻密に観察することを通じて、彼ら自身も気づいていない製品サービスの特徴的な利用方法や、何気ない不便を発見することを目的とする。その具体的な方法や事例については、オブザベーションを通じたデザインで知られるIDEOによる書籍が『デザイン思考が世界を変える』(ティム・ブラウン、早川書房、2010)や『発想する会社!』(トム・ケリー、ジョナサン・リットマン、早川書房、2002)として日本語にも訳されている。

デザイン思考が世界を変える』
ティム・ブラウン/早川書房/2010年 




発想する会社!』
トム・ケリー、ジョナサン・リットマン/早川書房/2002年



オブザベーションで重要なことは、おそらく、単に日常風景を熱心に眺めるということではなく、その眺めの中で何かに気づくという点にある。例えば「マイナビ就活名刺」であれば、このアプリがあろうとなかろうと、就活シーンでの学生のやりとりは日常的に確認できただろう。けれども、それは多くの学生にとってあまりに当たり前の風景であり、そこに何の不便もなければ、仮に不満を持っていたとしても、それ以上にどうしようもない、そういうものだということで見過ごされてきた。そうした日常に、彼らはオブザベーションを通じて驚きを覚えるとともに、新しいサービスの可能性を見出したわけである。