※本稿は、鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
ヒット商品の開発が間に合っていない
トヨタは今、焦りまくっています。業績は良いのですが、このままいくと急拡大する新エネルギー車市場で売れる商品を2026年まで投入できなくなりそうなのです。
「いやトヨタだってbZ4Xという最新のEV車を発売しているじゃないか」と反論されるかもしれません。2023年にはこれに加えてレクサスのRZ、中国のBYDと共同開発したbZ3など、少しずつラインナップを増やしています。
まずはその点から話を始めましょう。トヨタがAI市場をどのように見誤ったのかという話からです。
2024年頭の時点で、最新のEV車に求められるものは何だと思いますか?
電池の性能と航続可能距離でしょうか? AIの運転支援機能による安全性能でしょうか? それともEV車特有のトルクがもたらす走りでしょうか?
もちろんそれらはすべて必要なことですが、「最重要」ではありません。SDVという開発コンセプトこそ最も必要なのです。
SDV(Software Defined Vehicle)とは、これまで業界がコネクテッドカーと呼んでいたものの概念が進化したものです。その特徴は3つあります。
「コネクテッドカー」の概念を日本はずっと取り違えていた
最もわかりやすい特徴は、ソフトウェアをダウンロードすることで性能が上がる点です。
コネクテッドカーという概念は、2010年代に聞かれるようになりました。メルセデスベンツがCASEというキーワードを提唱し、次世代の車はConnected=コネクティッド、Autonomous/Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化という方向に進化すると、業界のロードマップを整理したのです。
このコネクテッドカーの概念を日本車メーカーは取り違えてきたと思われます。多くの日本のメーカーが実現できたコネクテッドカーは、ドライブ中に好きな音楽や映像コンテンツをダウンロードでき、地図で検索をすれば目的地の方向にあるレストランやお店の情報が検索でき、万が一のトラブルが起きた際にはコンタクトセンターから「どうしましたか?」と助けが入るようなレベルでした。
これに対して、新市場における日本車の最大のライバル・テスラが到達したコネクテッドカーの概念は、それらとは大きく異なるものでした。それがまさしくSDVと呼ばれる概念です。