そして、最後にマーケットインの発想、つまりお客さまがどう考えるかということが重要です。金融機関というものは、マーケットよりもプロダクトアウトの発想に陥りがちです。「自分たちの目から見て『いい商品』をつくれば売れる」と考えがちです。でもこれでは会社を正しい方向に導けないと思います。
これらの要素を検討したら、可能な限り早く決断を下すことが大切です。「巧遅拙速(こうちせっそく)」、私の好きな言葉ですが、全員が賛成する状況を待っていては手遅れになるということです。そうした状況では、競合他社も同じ戦略を考えているからです。新しいこと、特に局面を大きく変える強い決断を下そうとするとき、できない理由を挙げてくる人は非常に多いでしょう。いわゆる「No because」ですね。しかし、それにとらわれると何もできないと考えています。
1996年、生保子会社の設立のときがそうでした。私は社長室で事務方として携わっていたのですが、最初は「飽和した市場で事業化の目処が立つのか」といった
「やるべきではない」という意見が山ほど出されました。でも、当時の諸先輩が10年、20年先の事業モデルを考え、生保と損保のクロスセルにより、事業は可能な限り多様化していくべきだと会社を導いたのです。2001年の旧三井海上と旧住友海上の合併のときもそうでした。今、この経営統合がどれだけ大きな意味を持ったかは、当社の現状を見ていただければわかっていただけるでしょう。
損害保険事業には、自然災害やテロのような大きなリスクファクターがあります。そのため、あまり一つの地域や一つの分野に売り上げを依存しすぎると、日本で広範囲に大地震が起こったような場合、大きなリスクとなります。合併によるシナジーを利用して、海外での積極的な事業展開を図るなど、事業の多角化が大切だと判断されたのです。それは、日本国内で長期安定的に商品を供給するためにも、事業のグローバル化や多様化が不可欠だという判断だったと思います。これは、10年4月からの3社統合でも関係者の共通認識の一つでした。