脳が健常であれば腸も健常となる
食べ物は、栄養素によって健康な体を維持しているほか、腸内細菌を介して、心の健康の維持にも役立っていることがわかってきました。
ですから、食べ物のメリットを「栄養素の摂取」という面だけから説明する考え方は、もう古いのです。
人は、自分の消化液の中にある酵素だけでは、食物繊維を分解できません。以前は、分解されない繊維が腸管を刺激して腸の蠕動運動を高め、便秘を防ぐなどといわれていましたが、今では、腸内細菌が食物繊維を分解してくれることがわかっています。
腸内細菌は、食物繊維を分解して餌にしているのです。そしてまた食物繊維は、腸内で小枝のように折り重なって、菌が繁殖する温床を提供し、有益な腸内細菌を増やすことも新たに判明しています。
ちなみに、肉に含まれる筋肉繊維は、食物繊維とはまったく違うものです。だから肉を食べる際には、野菜、果物、豆類など、食物繊維を多く含む食材も併せて食べることをおすすめします。
タンパク質をとると、(一時的にですが)元気になることがありますが、その理由は、これまでは「肉に含まれる成分が脳を刺激するからだ」とされてきました。
しかし、この考えには腸内細菌の存在が欠落しています。もし、肉さえ摂取すれば元気になるというなら、野菜がほとんど入っていないファストフードのハンバーガーが、最適な食事ということになるでしょう。
でも、実際には、ハンバーガー類を多食している欧米では心臓病、肥満などが多いうえに、不安症やうつ病までも増えています。これは、タンパク質を摂取するだけでは、心の病の予防にはならないことを意味しているように思います。
健康な脳は、人間の行動を正常にし、環境が変わって人間関係が希薄になったとしても、私たちのメンタルを健やかに保つよう働いてくれます。そして、脳が健常であれば腸も健常となり、腸内の免疫細胞とその活動も正常に働くのです。
白い小麦粉とジュースの発明で排除された食物繊維
1800年代、世界の食品加工メーカーは、小麦や大麦などを精製して粉末にする方法を考案しました。そう、「白い小麦粉」の登場です。
小麦を、小麦の外皮を壊して取り除いて粉砕する。すると、小麦は非常に微細な粒子となり、調理しやすくなります。この白く精製された小麦粉は、商業的に大成功を収めました。
これでパンを作ると、やわらかく食感がよくなり、よく膨らんで普通の小麦粉で作ったパンの2倍の大きさになったからです。
同じようなことは、果物にも行なわれました。多くの飲料メーカーが製造する果物ジュースは、果物の外皮を取り除いています。その結果、ジュースは非常に飲みやすい液体になりました。
このような「精製された食品」の問題点は、腸内細菌のことをまったく考えなかったことです。
小麦や果物の精製によって排除されたのは、食物繊維でした。食物繊維は、よい腸内細菌を増やすのに、絶対に必要なものです。
最初は、「食べやすい」とか「効率的だ」として始まった食品の加工は、結果的に腸内細菌に悪影響を与え、多くの人の健康を損なうことになります。
それは、私たち消費者にも責任がありました。私たちは、食べやすく加工された食べ物が病気を増やすことを知らなかったのです。
果物を丸ごと食べる重要性
これによって増えたのは、腸の炎症疾患です。過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病などです。
しかも食物繊維には、人間にとって貴重なビタミンを作る働きもあります。
「ビタミンなんてサプリメントで摂取すればいい」と考える人はいるでしょう。しかし、口から取り込んだビタミンは、腸内で分解されてしまって、あまり効果がないことも知られています。
その一方で腸内細菌は、食物繊維を利用して効率よくビタミンを作りだします。
食物繊維は酸や酵素によって分解され、大腸に到達します。そして大腸の中の腸内細菌が、まだ分解されていない繊維を一部分解し、ビタミンや抗酸化物質を作るのです。
このことからいえるのは、精製された小麦粉で作ったパンやパスタではなく、全粒粉のパンやパスタを食べなさい、白米よりも玄米を食べなさい、ということです。
ジュースも、果物の皮を取り除いたものより、皮ごと擂ったスムージーにするか、果物を丸ごと食べることが思いのほか重要なのです。