※本稿は、池上彰・佐藤優『人生に効く寓話』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
◎あらすじ
昔あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいた。ある日、仕掛けておいたわなに、畑を荒らす古だぬきがかかる。おじいさんは、縛り上げて担いで家へ帰り、天井の梁にぶら下げて、また畑へ出かけた。ところが、おばあさんはたぬきに殺されて、「ばばあ汁」にされてしまう。そればかりか、おじいさんが化けたたぬきに騙されて、それを食べてしまった。おじいさんが泣いているところに、裏山に住む白兎がやってきて、かたき討ちを約束する。
まず、栗を欲しがるたぬきに、「柴を向こうの山まで背負っていったらあげよう」と言い、後ろを歩きながら、背中の柴に火をつけた。あくる日、火傷を負ったたぬきの見舞いにきた兎は、唐辛子みそを薬だと偽って、たぬきの背中に塗りたくる。最後は、たぬきを海に誘い、土の舟に乗せて沖へ出る。土は崩れ、たぬきの乗った舟は沈み始めた。「助けてくれ」と慌てるたぬきをおもしろそうに眺めながら、兎は「おばあさんを殺して、おじいさんにばばあ汁を食わせた報いだ」と言った。たぬきはとうとう沈んでしまった。
(「かちかち山」楠山正雄)本当は恐ろしい日本の民話
【池上】我々が今回あらためて読んだのは、大正・昭和期の児童文学者、演劇研究家の楠山正雄の手による「かちかち山」です。おじいさんの留守に、おばあさんを殺して「ばばあ汁」にしちゃう。それだけで気持ちが悪くなるのに、長年連れ添ったおじいさんに食べさせてしまうというのですから。グリム童話だけではなく、日本の民話も相当恐ろしいんですね。
子どもに読み聞かせる絵本の世界では、さすがに強烈過ぎるということで、多くは、おばあさんに改心を誓って縄を解かれたたぬきは、そのまま逃亡。ラストも、泥の舟もろとも沈みそうになったのをギリギリで助けられて、たぬきは今度こそ悔い改めました、といったストーリーに改変されています。
【佐藤】多くの日本人が、「かちかち山」といえば、火のついた柴を背負って慌てるたぬきと、泥舟のシーンを思い浮かべるのは、そのためでしょう。ちなみに、テレビアニメの『まんが日本昔ばなし』では、おばあさんは、「汁」にはされないものの、殺されてしまいます。泥舟に乗ったたぬきは、溺れ死んで、ジ・エンド。