「対中強硬路線では経済が好転しない」

総統選挙の歴史を振り返れば、1996年に初めて、総統を選ぶための直接選挙が導入され、2000年以降は2期8年ごとに政権交代(民進党・陳水扁⇒国民党・馬英九⇒民進党・蔡英文)が行われてきた。

台湾総統府の中にある歴代総統のコーナー(手前は蔡英文総統)。次に登場するのはだれか。
写真=筆者提供
台湾総統府の中にある歴代総統のコーナー(手前は蔡英文総統)。次に登場するのはだれか。

2023年11月24日の立候補届け出までに、野党の国民党・候氏と台湾民衆党・柯氏との候補者一本化が実らず、お互いに罵り合って別れたことを思えば、与党・民進党の頼氏が有利となるが、台北市民に聞けば、

「蔡英文総統の実績は評価する。ただ、いつまでも対中強硬路線では経済が好転しない」
「今年の夏、防空避難訓練に参加したが、戦争にしないためには別の選択も必要」

といった声が返ってくる。特に「天然独」と呼ばれる、生まれながらにして台湾人という若い世代は、投票先を決めかねているのだ。

台湾総統選挙の投票率は、蔡英文総統が初当選した2016年が約67%。再選を果たした前回の2020年が約75%と、日本の衆議院選挙が50%台なのに比べれば、はるかに高い。なかでも、20代の若者は前回の投票率が90%前後にまで達したとされるほど関心が高い。

その若者が「今とは違う路線を」と語る点、そして、8年周期の法則がある点からすれば、国民党の候氏が勝利する可能性も捨てきれない。

与党・民進党と野党・国民党が接戦を繰り広げる

事実、野党による候補者一本化が失敗して以降、それまで世論調査では35%前後の支持率で、2位以下を10%前後引き離してトップを走ってきた頼氏に、2位の候氏が肉薄している。

2023年7月31日、来日し国会を訪問した侯友宜氏(写真=筆者提供)
2023年7月31日、来日し国会を訪問した侯友宜氏(写真=筆者提供)

11月24日、立候補の届け出が締め切られた日、台湾の「ETtoday新聞雲」が実施した世論調査では、民進党の総統・副総統ペアに対する支持率が34.8%だったのに対し、国民党の総統・副総統ペアに対する支持率は32.5%となった。

現在も、この状況は変わらず、民進党寄りのメディア、「美麗島電子報」が12月12日に発表した調査結果では、頼氏は35.1%、侯氏は32.5%と接戦。3位の柯氏は17.0%に留まった。

台湾民衆党・柯文哲陣営は台北市の繁華街でテントを設置し支持を訴える
写真=筆者提供
台湾民衆党・柯文哲陣営は台北市の繁華街でテントを設置し支持を訴える

ここで注目したいのが、3人の副総統候補である。アメリカ大統領選挙もそうだが、台湾総統選挙も、総統候補だけでなく、ランニングメイトである副総統候補が誰であるかは重要な意味を持つ。