物流のノウハウを持たない企業の「使い放題」意識

配送回数を減らせるよう販売サイクルを変える、あるいは荷台により多く積めるよう製品を設計するなど、打ち手はたくさんあるはずです。にもかかわらず、現状では取り組みを実践している荷主企業は決して多くありません。

さらに、2022年の国土交通省の調査では、同じ企業の中でも販売・製造部門は物流に対する危機意識が低いことがわかっています。物流部門が懸命に危機感を訴えても、販売・製造部門が取り合ってくれなければ取り組みは進みません。企業戦略を担う部門の「物流軽視」の傾向が、問題の解決を難しくしているのです。

同じ調査では、どの産業でも7割以上の企業が「物流危機に問題意識を持っている」と回答しているものの、取り組みを推進できているのは全体平均で半分程度にとどまっています。

また、近年では物流部門を持たない荷主企業も増えています。こうした企業は、長引く経済停滞の中でコスト削減のために物流部門を子会社化したり、丸ごとアウトソース化したりしてきました。そのため、物流ノウハウも物流を含めた経営戦略も持たないまま物流危機に直面する事態になってしまっています。これも物流軽視の結果であり、日本の産業構造的な問題であるといえます。

しわ寄せが一番立場の弱いドライバーに降りかかっている

一方、物流事業者だけでは積載率を上げられないのと同じように、荷主も1社だけでは取り組みを進められません。荷主の中にも、荷物の出し手である「発荷主」と受け取り手である「着荷主」がいます。変化を起こすには双方が手を取り合わなければなりませんが、発荷主<着荷主というパワーバランスのせいで対等に交渉しにくいという現状があります。物流のこの特殊性が、企業同士の話し合いによる解決を難しくしています。

私は、物流危機はこうした荷主側の問題が絡み合って起きたものだと考えています。なのに、現状ではすべてのしわ寄せがいちばん立場の弱い物流事業者に行ってしまっているのです。

しかしながら、その荷主を所管しているのは誰かというと、工業や流通業などの分野は私たち経済産業省、農業・水産業分野は農林水産省です。その意味では現在の物流危機は、事態がこれほど複雑になるまで放置してきた私たちの責任でもあります。