検討ばかりの岸田首相が一歩踏み込む
11月22日の国会・予算委員会で、岸田首相がこの問題について初めて答弁する場面があった。質問者は緒方林太郎議員だ。まずはその一部を抜粋してみたい。
【緒方議員】危険運転致死傷罪について総理にお伺いしたいと思います。この罪は1999年、東名高速道路飲酒事件をきっかけとして、悪質な危険運転の故意犯を切り出して作ったものです。しかしながら、これまでの判例を見ていると、正常な運転が困難な状態とか、進行を制御することが困難な高速度とか、進行を制御する技能を有しない、といった法の規定が不明確なんですね。
判例でも、一般道を150キロを超えるスピードで爆走して起こした死亡事故とか、無免許、飲酒、当て逃げ後の逆走、無灯火、無車検、無保険で起こした死亡事故であっても適用がないというような、一般国民の理解を超えた状況にございます。私はこの件をずっと国会で取り上げておりまして、この見直しについて、現在、平沢勝栄先生をトップとする与党のPT(プロジェクトチーム)でも検討がなされていると聞いております。
これまで私が法務省から得ている答弁は、「十分な検討」とか「慎重な検討」とか、そういった表現でした。岸田総理、かねてから「けんとうし、けんとうし」と言われておりますが、今日はもう、ただただ「検討する」とだけ言っていただきたいと思いますが、総理大臣、この要件の見直しについて答弁いただければと思います。
【岸田総理大臣】危険運転致死傷罪につきましては、委員ご指摘のように「構成要件が不明確である」「適切にこの法律が適用されない」こうしたさまざまなご意見、ご指摘があることは承知しております。その上で、自民党においても、交通安全対策特別委員会にPTを設置して議論を行っている次第であります。所管の法務省の対応として検討をすると申し上げており、適正に対応するものと考えております。
【緒方議員】それだけでもかなりの前進でありまして、小泉法務大臣、よろしくお願い申し上げたいと思います。
遺族の声から生まれた法律だったのに…
岸田首相の答弁にもあるように、これまで多くの被害者遺族が「構成要件が不明確」だとして、「危険運転致死傷罪」の条文見直しを求め、声を上げてきた。しかし、現状の条文でも十分に「危険運転」に問える事案であっても、検察のこじつけのような判断で起訴が見送られてきたのも事実だ。
緒方議員がこの質疑の中で取り上げた『無免許、飲酒、当て逃げ後の逆走、無灯火、無車検、無保険で起こした死亡事故』は、実際に2011年のハロウィンの日に、名古屋市内で起こった先述の死亡事故だ。
実は本件については、事故の翌年、3人の議員によって、かなり具体的に国会で取り上げられ、運用の理不尽さが指摘されていた。
●2012年2月29日、予算委員会/中島正純議員、松木けんこう議員。
●2012年3月7日、内閣委員会/平沢勝栄議員。
違法行為の上に違法行為を重ね、順法精神のかけらもないようなドライバーによる悪質な事故が、なぜ「危険運転」に問われなかったのか――。この事故で大学生だった長男の命を奪われた父・眞野哲さんは、当時から筆者のもとに悲痛な声を寄せ続けてきた。そして、事故から12年経った今も納得できずにいる。
危険運転致死傷罪をめぐる問題は進展しないまま、時間ばかりが過ぎてしまった。そして、危険な運転によって大切な人を失った遺族たちに、言葉では言い表せない苦痛を強いているのだ。