中国や韓国に引き離されつつある日本の平均身長
身長は栄養状態の改善や経済発展で伸びてきていることが過去と比べた日本人の身長の推移を見ても明らかである。この点は、われわれの父母や祖父母や次世代の若者の背の高さの違いから日常的に感じ取っていることである。
そこで、こうした時系列的な身長の変化を主要国について、次に、見てみよう。
1820年代生まれの平均身長から現在に至るまでの主要国の身長の長期推移を図表3に示した。時系列軸が出生年代で刻まれているのは、出生後しばらくの栄養条件や疾病状況で成人時の身長が決定される可能性が高いからである。各世代の身長が混在する各時点の成人平均身長よりも時代変化が明確に表れるデータのとり方といえよう。
第2次世界大戦後は世界各国で栄養が十分に供給されるようになって身長が大きく伸びてきた状況がはっきり見て取れる。
アジア諸国は19世紀には、日本のように鎖国していたり、中国などのように植民地化されていたりして全般的に貧しく、身長の伸びも停滞していた。それだけに、特に第2次世界大戦後の伸びが目立っている。中国などは19世紀前半生まれの身長は米国に次ぐ高さでオランダやフランスといった西欧諸国を上回っていたのが、19世紀後半には身長自体が低くなっていたところに植民地下の厳しい状況がうかがわれるのである。
現在は世界一の身長を誇るオランダであるが、実は、19世紀前半の段階では米国の方がずっと背が高かった。これは旧英領植民地諸国の特徴であり、処女地ゆえ肥沃な新大陸で肉などの食料を豊富に得ることができていたからだと考えられている(注)。19世紀後半には当初の優位性は消え、イタリアなど背の低い南欧からの移民も増えて平均身長は低下したが、20世紀に入ると西欧と同様に身長は、再度、伸び始めた。
(注)「アメリカの入植者がイギリスに反旗を翻したとき、アメリカの入植者の栄養状態はイギリス人よりもはるかによかった。アメリカの兵士は味方のフランスや敵のイギリスの兵士よりも頑強な体格だったのだ。1793年にフィラデルフィアの医師ジョン・ベルは、初期のアメリカ人は“大食漢だった。というのは、彼らの周りには、豚、牛、野菜、トウモロコシなど、食物が溢れていたからだ”と記している」(ジャック・アタリ『食の歴史』プレジデント社、原著2019年、p.132)。
ところが、米国は、近年、貧富の格差や移民の増加によるものと思われるが、身長が停滞しているように見える。実際、米国CDCの調査データを見ると2000年代初頭から米国人の身長は低下に転じている。
オランダやフランスはアジアと比べると早くから近代化が進み、身長の伸びも早くからはじまっていたが、19世紀前半には両国の背の高さにはほとんど差がなかった。戦後、オランダがフランスを大きく身長で上回るようになったのは、栄養上の制約が取り払われて、寒い地域の方が背が高いというもともとの遺伝的な特性(ベルクマンの法則)があらわれるようになったとみてよかろう。
日本人の身長は江戸時代に栄養水準の停滞や雑種強勢を阻む婚姻圏の局地化により日本史上最低レベルの身長となっていたこともあり、1880年代生まれの身長は図の中で最低であった。
しかし、その後、文明開化、産業の近代化、栄養改善、あるいは国内外にわたる婚姻圏の拡大を通じて目覚ましい身長の伸展を見た。もっとも最近は身長変化の幅は小さくなっており、中国や韓国に離されるかたちとなっている。中国や韓国は北方民族的なDNAが日本より濃いため、上でオランダがフランスを引き離しているのと同様に、栄養条件均等化にともなう素質顕現の動きが進み始めていると見なすことができよう。