「こどもちゃれんじ」で獲得した会員が残り続けるビジネスモデル

そこで見ていただきたいグラフがあります。ベネッセのIR資料をもとに独自分析をしたベネッセの国内教育事業の会員数のグラフです。ベネッセは就学前の幼児を対象に「こどもちゃれんじ」を提供していて、小学校に進学すると「進研ゼミ」に移行しそれが高校まで続くというのが基本構造です。

【図表】ベネッセ国内教育事業の一学年あたり会員数の推移
図表=ベネッセの決算補足資料を基に百年コンサルティング作成

今から10年前の2013年度ではベネッセが獲得する一学年あたりの会員数を試算すると「こどもちゃれんじ」が一番多く、そのほぼ全体が「進研ゼミ」に移行していたことがわかります。試算では「こどもちゃれんじ」の主たる会員は2歳児から5歳児までの4学年として計算してあります。

この時代の小学生人口は一学年あたり108万人です。そこから計算すると進研ゼミは全小学生の約24%を会員としていたことがわかります。その後、中学校に進学しても8割の生徒が進研ゼミを続け、高校進学で6割のボリュームの生徒が離脱します。さすがに大学受験となると東進ハイスクールのような予備校に頼る生徒が多いのでこの脱落率の高さは仕方ないのでしょう。

いずれにしても「こどもちゃれんじ」の頃に獲得した会員が、その後、10数年にわたって高い比率で残り続けるというこの左側の美しいグラフが、もともとのベネッセの国内教育事業が誇った強いビジネスモデルの正体でした。

グラフの「形」が大きく変わってしまった

妊娠・出産・子育ての1000日間に向けた「たまひよ」から数えれば「こどもちゃれんじ」から「進研ゼミ」まで商品群がつながっていた2013年頃はベネッセの黄金期ともいえるでしょう。ベネッセの失敗は、その後の10年間で経営陣がこの金の卵を産む鶏を解体してしまったことにあるようです。

真ん中のグラフは個人情報流出後の2018年度の会員の状況です。一目でわかることは幼児と小学生の会員数の水準が大きく下がっていることです。小学講座の会員数は学年あたり2013年の26万人から2018年には18万人に減少しています。

これを小学生全体のシェアでみると24%から17%へと3割も会員が減ったことになります。個人情報流出とその後の謝罪方法が良くなかったことで、ベネッセが大きく評判を落とした後の国内教育事業は、少子化をはるかに上回るペースで顧客を失ったのです。ただこの段階ではまだ、一度獲得した顧客が長く会員を続ける構造自体は壊れていません。

もっと衝撃的なのが右側のグラフです。現在のベネッセの状況がどうなっているのかがわかるグラフなのですが、まず「こどもちゃれんじ」が以前のように会員を獲得できなくなってきていることがわかります。そしてそれを小学講座で盛り返しているのがわかります。実は2023年の小学生人口全体に対する会員シェアは18%と5年前よりも上がっています。