幼小中高の事業基盤が分断している
そうやってせっかく獲得した小学講座の会員を中学講座への移行期で半分近く失っていて、さらに高校講座に移行する段階で中学講座の7割の会員が離脱しています。一目見てわかるのが幼児、小学生、中学生、高校生のそれぞれの事業基盤が分断されている状態です。これは会社組織に事業部制を取り入れると出現する現象です。
あくまで状況証拠として語らせていただくと、それぞれの組織に利益を競わせると、それまで全体が連動することで金の卵を産んでいた鶏は、分断され壊れていきます。このようなファクトを読み込む前は、私はベネッセの国内教育事業の苦境は少子化の影響が大きいのではという仮説を持っていたのですが、この10年の子ども人口の減少は8%程度でしかありません。ベネッセの国内事業の崩壊は外部要因ではなく内部要因だったというのは発見です。
このあたりはおそらくベネッセ創業家も同じ問題意識を持っているようです。というのも既に決算報告では組織体制を変更して「国内こどもちゃれんじ」を「進研ゼミ」と同じ国内教育事業へと編入したと発表しています。
ちなみに「たまひよ」はこの再編からは外れるようですが、事業としては「たまひよ」は「こどもちゃれんじ」よりも社会人事業とのシナジーの方が大きい事業なので国内教育事業へ入れる意味はあまり大きくないかと私も思います。
組織哲学の変革から手掛けようとしている
このような文脈に基づいて今回ベネッセが発表した変革事業計画を見ると、MBOを行う意図がよく理解できます。変革はこれからの3年間、2つの事柄に力を入れるようです。
その1つめは「商品価値と営業手法の再設計」だとされています。営業手法は前述した幼小中高それぞれの分断をどう元に戻すかが肝要ですが、そのためには組織哲学の変革から手掛けなければなりません。他部門を出し抜くのではなく協調する方向へと大組織の舵取りを修正するのは時間と再教育の手間がかかります。非公開会社にしたうえで創業家が腰を据えてそれに取り組むという意図が感じられます。
一方で商品価値の変革内容ではDXに関わるものが多い様子です。たとえば進研ゼミを任天堂Switchで学ぶ仕組みを小学講座全学年に広げるとか、スマートウォッチとの連動、バーチャル自習室などの文言が並ぶ様子を見ると、どちらかといえば出遅れていたデジタル化へのキャッチアップに力を入れる姿勢が伺えます。
個人的に興味を感じた点はAI先生の導入です。進研ゼミといえば赤ペン先生だと思っていたのですが、月一回、添削してくれる赤ペン先生よりも、いつでも何度でも質問できるAI先生のほうがいいと児童が感じる時代が来たのかもしれないと思わせる施策です。