医師たちは「気の緩み」を連呼した

人類学者の磯野真穂氏は、2020年1月1日から2023年8月15日までの間に、朝日新聞のデータベース上で「気の緩み」という言葉が登場する記事を調べている(*3)

磯野氏の関心は、「気」という言葉の使われ方であり、それがもたらす力についてであり、その点については、彼女の記事をご覧いただこう。

160件におよぶ「気の緩み」が含まれる記事の中で、最も多い4割を占める政府・自治体関係者に次ぐ2割弱が医師などの専門家、すなわち「医クラ」によるところである。

磯野氏は、次の2つの発言を取り上げている。

「私は感染拡大の根底にあるのは気の緩みで、ウィズコロナという表現が適当ではなかったと感じる」(2020年11月27日、朝日新聞大阪本社版に掲載された医師の発言)。

次が、昭和大学病院の相良博典院長が「感染対策に気の緩みが生まれることを懸念する」という記述(2021年9月29日朝日新聞)である。

福岡県に緊急事態宣言が発令されたことを知らせる電光ボード
写真=時事通信フォト
福岡県に緊急事態宣言が発令されたことを知らせる電光ボード=2021年5月12日、JR博多駅

専門家の「非科学的」な論理構造

磯野氏は、同じ感染症の拡大であっても、例えばインフルエンザのような「さまざまな感染症が拡大するたびに、その原因が『気の緩み』に求められてきたわけではない」と指摘している。

私も磯野氏に、まったく同意するのだが、それ以上に、「医クラ」の人たちの論理構造を疑う。

彼らが、「専門家」として、常に「科学」を盾にしているからである。

「科学」を崇拝する「専門家」であるならば、「気の緩み」を、逆に「非科学的」だとして退けなければならないのではないか。

「気の緩み」など、何も「科学」的な根拠のない、素人の戯言だと、一刀両断しなければならないのではなかったか。

それどころか、磯野氏の記事にあるように、「医クラ」が、さんざん「気の緩み」を掲げていた、そこを疑わないわけにはいかないのである。