「世間知らず」では片付けられない
問題はそう単純なものではないだろう。「医クラ」が「気の緩み」を連発してきたのは、「世間知らず」にとどまらない、全能感に由来するのではないか。
それは、命を預かっている責任感や緊張感、使命感と表裏一体と言えよう。
「医クラ」の助けを借りなければ、いまの日本では、ほとんどの人たちが出産もできないし、また、死亡宣告は医師が行わなければならない。
人間が生まれるときと死ぬとき、という2つの最も重要な場面で、医者がいなければならない、そんな社会に私たちは生きている。
日本で働く多くの「医クラ」は、SNSでの発信などせず、淡々と黙々と、朝から晩まで、目の前の患者さんに向き合っている。
こうした事実がまた、「医クラ」の全能感を増大させ、医療の「素人」たる多くの人たちを見下すことにつながり、「気の緩み」との決めゼリフによって非難させるのではないか。
「世間知らず」だけであるなら、彼らと社会との接点を増やしたり、あるいは、「バカ殿」などと揶揄されない仕組みを作ったりすれば、デメリットは減っていくだろう。
けれども、問題は、より根深い。
「医クラ」に依存するマスメディア
「医クラ」の全能感を支えるような発言が、インターネット上だけではなく、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌といったマスメディア上で、四六時中流されているからである。
「この症状は、どうすれば?」「この病気を克服するには?」
そうした記事が、あらゆるところで幅をきかせている以上、単に生殺与奪を握られているといった恐怖心にとどまらず、さらに根っこのところで、メディアが「医クラ」に依存している。
それほどまでに、日本に生きる人たちの医療や健康への関心が高いから、世界の歴史上、稀に見る長寿社会なのかもしれない。
ただし、冒頭で触れた宇佐美氏の問題提起のように、「システムとして延命治療したほうが経済的に得なシステムがあるから制度設計を見直せ」という議論(*5)は、ここまで医療コンシャス、健康コンシャスなメディアでは主流にならないだろう。
だからこそ、「世間知らず」では済まされない、もっと根本から日本社会を考えるべき問題を含んでいるのである。
(*1)「『国民皆保険制度なくなってほしい』投稿が物議 日本人は延命治療し過ぎ?」ABEMA Prime、2023年11月17日放送
(*2)RM X 帝国@現役世代の強い味方、最終更新 午前1:20・2023年11月19日
(*3)磯野真穂「『気の緩み』、言ったのは誰? 記事160本、人類学者が分析したら」朝日新聞デジタル、2023年10月27日17時00分配信
(*4)落合博実「国家公務員キャリアシステムについて」『立法と調査』、2008年11月号別冊
(*5)宇佐美典也(本物)、午後7:14・2023年11月19日