日本が「失われた30年」を今なおさまよい続けているのはなぜか。コンサルタントの山口周さんは「社会心理学の創始者であるレヴィンは、古い思考や行動様式を変えるには新しいことを始めるのではなく、古いものを終わらせる必要があると説いている。日本はまだ昭和を終わらせておらず、平成という下り道を下り続けている」という――。

本稿は、山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

クルト・レヴィン(1890~1947)
ドイツ出身のアメリカの心理学者。いわゆる「社会心理学」の創始者として認められ、グループ・ダイナミクスや組織開発の領域において大きな貢献を残した。2002年に発表された調査では、20世紀中、最も論文の引用回数が多かった心理学者としてレヴィンがランクインしている。
クルト・レヴィンのレリーフ(写真=Pko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
クルト・レヴィンのレリーフ(写真=Pko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

レヴィンの「解凍=混乱=再凍結」モデル

組織の中における人の振る舞いはどのようにして決まるのか。

クルト・レヴィン以前の心理学者、中でも特に「行動主義」と呼ばれる分野の人々によれば、それは「環境」ということになります。しかし、レヴィンは「個人と環境の相互作用」によって、ある組織内における人の行動は規定されるという仮説を立て、今日ではグループ・ダイナミクスとして知られる広範な領域の研究を行いました。

レヴィンは様々な心理学・組織開発に関するキーワードを残していますが、ここでは中でも「解凍=混乱=再凍結」のモデルについて、説明したいと思います。レヴィンのこのモデルは、個人的および組織的変化を実現する上での3段階を表しています。

鶴から飛行機に変化する折り紙
写真=iStock.com/wildpixel
※写真はイメージです

「なぜ今までのやり方ではダメなのか」を共感する

第1段階の「解凍」は、今までの思考様式や行動様式を変えなければいけないということを自覚し、変化のための準備を整える段階です。当然のことながら、人々は、もともと自分の中に確立されているものの見方や考え方を変えることに抵抗します。したがって、この段階ですでに入念な準備が必要となります。

具体的には「なぜ今までのやり方ではもうダメなのか」「新しいやり方に変えることで何が変わるのか」という2点について、「説得する」のではなく「共感する」レベルまでのコミュニケーションが必要となります。

第2段階の「混乱」では、以前のものの見方や考え方、あるいは制度やプロセスが不要になることで引き起こされる混乱や苦しみが伴います。予定通りにうまくいかないことも多く、「やっぱり以前のやり方の方がよかった」という声が噴出するのがこの段階です。したがって、この段階を乗り切るためには変化を主導する側からの十分な実務面、あるいは精神面でのサポートが鍵となります。