電源立地交付金は河川法に縛られない

11月9日の会見で、川勝知事は田代ダムの水を使用する発電所が所在する山梨県早川町について言及した。川勝知事は「田代ダム案が出たとき、早川町の辻(一幸)町長が『田代ダム案で取水が抑制され、発電量が減ることで早川町への電源立地交付金が減額になった場合、差額を補償してもらう』と言っていた」と発言。加えて、それについて「当時の金子(慎JR東海)社長は早川町へ補償するとおっしゃった」と続けた。

また、このJR東海の対応に対して「通常考えれば、これは水利権の目的外使用というふうにとられます。国交省は目的外使用に当たらないと説明している。しかしこれは非常にグレーである」などとデタラメな発言をした。

水力発電施設周辺に交付される電源立地交付金(正しくは水力発電施設周辺地域交付金)は、資源エネルギー庁が発電用施設周辺地域整備法で管理している。

当然、発電用施設周辺地域整備法による電源立地交付金が、河川法の水利権に縛られることはない。つまり、全く関係ないのだ。

10年ほど前、川勝知事は、水利権更新を控えた田代ダムを視察後、早川町を訪れた。辻町長から、田代ダムからの電源立地交付金が町財政に重要だという話を聞いて、今回の田代ダム案と電源立地交付金を結びつけてしまった。

もはや恒例化した川勝知事の「不適切発言」

早川町には5カ所の東電RP管轄の水力発電所がある。各発電所の毎年の発電量は雨量など天候に左右されるほか、それぞれの施設の更新、点検などもあるため、一定ではない。

そのため、資源エネルギー庁はダムなどを含めたすべての発電用施設の過去10年間の平均発電電力量などを基に交付金額を算定して、山梨県を通じて早川町に交付している。個別の発電所やダムごとに交付金が支払われる制度ではない。

今回の田代ダム案による取水抑制での発電量の減少は、全体からすればわずかな値で、交付金額算定では誤差の範囲でしかない。たとえ今回の取水抑制で電力量が減っても、実際の交付金が減額されるかどうかはわからない。

そもそも、国の交付金が減ったからといって、JR東海が自治体に補償するわけはない。

2022年11月2日にリニア実験線に試乗する川勝知事と金子社長(当時)
写真=JR東海提供
2022年11月2日にリニア実験線に試乗する川勝知事と金子社長(当時)

2022年6月9日の記者会見で、金子社長(現会長)が東電RPへの補償に言及している。

翌日付の静岡新聞記事によると、「河川法で認められていない水利権の売買に当たらないか」という記者の質問に、金子社長が回答している。

同記事で、金子社長は「取水の抑制をお願いすることで東京電力に損失が出るということであれば、なんらかの形で補償するという話になるかもしれないが、水利権を譲ってもらうとか、対価を払うという発想ではない。法律に抵触するお願いをしたという認識はない」と答えている。

金子社長は、田代ダム案で水利権を譲ってもらう対価を支払うわけではなく、河川法に抵触するおそれがないことをはっきりと明言している。

金子社長が、田代ダム案の補償関連で発言したのはその1回限りである。

今回、川勝知事が発言したように、早川町の電源立地交付金を補償するなどとはひと言も言っていない。

つまり、11月9日の金子社長に関わる発言は、川勝知事「恒例の不適切発言」である。