過去の失敗を経て政府方針が明確になった

大型プロジェクトが進行する背景として、わが国に半導体の製造装置、フッ化水素やフォトレジスト(感光性材料)など超高純度の半導体関連部材企業が集積することは大きい。半導体メーカーがサプライヤーとの連携を強化し、迅速に供給体制を整えて事業運営の効率性を高めるために、わが国の産業特性は大きな支えだ。

その中、現時点で、極端紫外線を用いた露光装置を世界で唯一製造できるオランダのASMLも北海道に新しい拠点を設ける。ラピダスは、米IBMが開発した2ナノメートルの設計技術などを用いて次世代半導体の製造を目指す。ラピダスはベルギーの半導体研究機関“imec(アイメック)”とも連携する。

エルピーダメモリの破綻などを教訓に、わが国の産業政策の運営方針は過去と異なる。補助金などによって民間企業のリスクテイクをサポートする政府の考えはかなり明確だ。政府は、企業の国際連携も促進する考えを示している。それらを支えに、ASMLはラピダスが次世代半導体分野で競争力を発揮する可能性は相応に高いと考えているだろう。

ロボットアームが起動している生産ライン
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課題は化石燃料由来の電力、人材不足

半導体の生産には、製造装置、関連部材以外の企業との連携強化も欠かせない。電力、水、物流、さらには半導体分野のエンジニアを育成するための教育制度、施設の拡充も必要だ。

それは近年の台湾の状況から確認できる。台湾では一時、異常気象による降雨量の減少などによって水不足が深刻化した。TSMCは散水車を用いて水を調達し、チップの生産を維持した。微細化技術の高度化に伴い半導体工場が消費する電力量も急増し、台湾の電力不足懸念も高まった。また、台湾では半導体関連の人材不足も深刻とみられる。

現在のわが国にとって優先度の高い課題は、天然ガスなど化石燃料に依存する電力供給、人材の不足だろう。2024年度、熊本大学は工学部に半導体デバイス工学課程を創設すると発表した。

それでも人材育成には時間がかかる。ラピダスなどは内外のネットワークを駆使して人材を確保し、当面の事業運営に臨む方針だ。わが国が関連する分野で投資や教育制度を強化して課題を解消し、半導体産業を育成できれば潜在成長率上昇の可能性は高まる。