30年続く経済停滞から脱却できるかもしれない
現在、わが国では、半導体関連の大型プロジェクトが動き出している。目ぼしいプロジェクトの投資額を総計すると、10兆円近い投資金額になる。実際に工場の生産活動が始まると、わが国の半導体生産能力は一気に高まる。
大型プロジェクトの概要を見ると、単にチップの生産量が増えるだけではない。従来、わが国の半導体の生産能力は、チップの回路線幅でいうと40ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)止まりだったものが、早ければ2025年に2ナノメートルのレベル(試作段階)まで飛躍的に高まる。2027年から量産する計画だという。
半導体産業の裾野は広い。工場用地としての不動産、電力や水利用のためのインフラ投資など幅広い波及需要も創出される。それによって、わが国は自動車に続く成長の牽引役としての産業を育成できるかもしれない。
それらのプロジェクトがうまく回転し始めると、わが国の経済は明るさを取り戻すことができるかもしれない。すくなくとも潜在成長率は高まるだろう。1990年代以降、わが国経済は30年以上にわたって停滞してきたが、ようやく、自動車に次ぐ産業の柱候補が明確にありつつある。人材の不足など課題も残るものの、わが国経済は回復に向けた大きなチャンスを迎えつつあるといえるかもしれない。
バイデン政権はTSMC、サムスン電子を支援
足許、世界の半導体産業は急速に変化している。それは、“地殻変動”といってもよいかもしれない。台湾や韓国に集積してきた先端分野のロジック半導体やメモリ半導体の生産拠点が、地政学的なリスク分散もあり、米国、わが国、ドイツなどに急速にシフトし始めている。
安全保障、脱炭素、宇宙開発など、ありとあらゆるところで半導体の重要性は高まる。“産業のコメ”にとどまらず、“戦略物資”として半導体の重要性は急速に高まっている。先端分野を中心とする、半導体生産能力の増強は主要国の力に直結する。
そのため、米バイデン政権は産業政策を強化した。台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などに補助金を支給し、先端分野の半導体工場を誘致した。
米アリゾナ州にてTSMCは3ナノメートルの回路線幅を持つチップの製造を行う計画だ。テキサス州ではサムスン電子が最先端の半導体工場を建設し、TSMCとのシェアの差を縮めようとしている。