伝説となったラジオ番組
彼女の有名な逸話に、デビュー間もない頃にラジオ番組「オールナイトニッポン」に出演した時の話がある。
母子家庭で孤独に育った生い立ちや、20歳になって初めて出会った親友などのエピソードを時には涙ながらに語り、アンチの立場だったリスナーと電話をつなぎ、真正面から話し合った。しかも、その話しぶりは彼女のキャラそのままであったが、語る内容は非常に理知的で筋が通っており、なおかつ誠実で嘘がなかった。
この番組の反響は大きく、当時の彼女のホームページにあった掲示板がパンクするほどだったという。
語弊があるかもしれないが、彼女は明らかに“社会的弱者”として生きてきた延長線上に立っており、同じような境遇やそれに共感する若者たちの拠り所になったのである。
この姿勢はずっと一貫しており、ずいぶん後になってからではあるが、LGBTQのイベントで「私もマイノリティーのひとりとして、みなさんと一緒に歩んでいきたい」という趣旨の発言をしたことからも、浜崎あゆみの一貫したスタンスがわかるだろう。
決してアイドル歌手ではない
このように検証していくと、浜崎あゆみほど誤解されやすいアーティストはいないかもしれない。彼女のことを深く知らなければ、華やかなショービジネスで成功したアイドル風の歌手のひとりでしかないだろう。
しかしその実像は、常に孤独を抱えながら世間の逆風と闘い続け、クリエイティヴィティを持って独自の言語感覚で歌詞を生み出し、弱者に寄り添った歌を歌い続けてきたのである。
そういった耳で彼女の楽曲を聴き直してみると、また違った風景が見えてくるだろう。そして不安しかない今の世の中だからこそ、浜崎あゆみの歌は以前よりも切実に聴こえるような気がするのだ。