GHQはNHKの受信料徴収に反対した
これは大改革だが、アメリカ化だった。アメリカでは放送の最初から受信者は自由に放送を受信でき、放送局は受信者からお金を取るのではなく、広告収入で経営をまかなってきた。
この大改革で困ったのはNHKだ。それまでの受信届け出制によってラジオの所有者が特定でき、受信料を容易に徴収できたが、これ以降はできなくなる。アメリカのように広告を入れればいいのかもしれないが、それまでのNHKはそんなことはやったことがなかった。
そこで一計を案じて、ラジオを持っていればNHKと受信契約し、受信料を払わなければならないと法律で決めることにした。憲法の定める契約の自由に反するが、こうすれば、受信の届け出がなくとも受信料を確実に取れることになる。
だが、GHQは法律によって受信契約を義務付け、受信料を取るという考えに反対した。憲法違反以前に、そもそもアメリカでは受信料を取る放送事業者などないからだ。しかもアメリカの放送局は、広告こそ流すものの「公共の電波」を使う以上、次の4原則を順守し、公共の利益に資することが義務付けられていた。この意味で民放といえども「公共放送」だった。
放送法の目的はNHKの独占を打破すること
二 政治的に公平であること。
三 事実を偽らないこと。
四 対立する意見があるときはなるべく多くの見方を示すこと。
これは現在の放送法第4条とほぼ同じだが、それもそのはずでこの法律を作ったGHQ民間通信局課長代理のクリントン・ファイスナーが放送法制定の時に持ち込んだものだ。
GHQは、このような放送局、つまり広告を収入源とするが、4原則を守る民放を日本に誕生させ、増やそうと考えた。放送が多元化すれば、戦前・戦中のような権力による放送の独占はしにくくなるからだ。これが、放送法を制定させた動機だ。
放送法とは、当時唯一の放送事業者であったNHKの独占状態を打破し、公共の利益になる放送事業を行おうとする民間事業者に免許を与えること、そのかわりとして免許事業者に一定のルールを課すことを目的としたものだ。だから4原則を定めた第4条はNHKだけでなく民放にも適用されるのだ。