「オタクなら知ってて当然」は昔のこと

しかし、例えば推しが出演しているドラマや映画でどれを観るべきなのかと他のオタクに尋ねたり、好きなアイドルグループがいても表題曲(CDのタイトル曲)しか聴かず、ライブでは他人が投稿したセットリストを参考にその曲だけを予習して参加するなど他人の知見や経験にあやかる。

自身で汗をかいて情報収集したり、推しが参加している楽曲や映像をすべて消費するといった、従来のオタクが当然のようにしてきたこともせず、好きなモノを好きなように消費するというスタンスが今では主流になっている。「オタクなら消費してて当然」「オタクなら知ってて当然」という「べき論」が強要されることも少ない。

さらに、マンガやアニメオタクを自称していても、そのマンガやアニメのDVDを保有している者は少なく、なかには違法アップロードされた動画を視聴している者もいる。音楽でもオタクと自称しながら、YouTubeに投稿されたものしか聴かない者もいる。

「お金を消費しなければオタクではないのか?」と聞かれたら「YES」とは言えないが、自分で対価も払わず、時間をかけることもない、ましてや別にオタクを名乗らなくてもいいのに、あえてオタクを名乗るフリーライダーと、そのコンテンツに命を懸けている消費者が、同じ「オタク」として総称される点に筆者は疑問を抱いている。

従来のオタクにはなかった「受け身の姿勢」

SNSを利用することで気軽に他のオタクと交流することができるようになったゆえに、匿名ネット掲示板2ちゃんねる時代の「半年ROMれ(コミュニティのコンテクストを理解しろ)」や「ggrks(自分で調べろ)」といった従来のオタクたちが強いられてきた暗黙のルールをすっ飛ばして、安易に他のオタクに聞く丸投げな姿勢に対しても疑問を抱くオタクもいる。

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写真=iStock.com/golubovy
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「半年ROMれ」や「ggrks」の精神は、知りたいことはたいがい掲示板での会話に存在しているので自分で調べればわかるという考えに基づいており、安易に聞くという行為はタブーであった。なにより好きなモノに対して他のオタクに質問するという行為は、自身の無知や自身の情報探索能力の低さを露呈する行為であるため、恥ずべきことであると考える層も存在する。そういった意識を持つオタクたちに対して、丸投げで安易に質問をするという受け身な姿勢は、「本当にそのコンテンツが好きなのか」という疑念を抱かせるのである。

このような「詳しくなければオタクを名乗ってはいけないのか」「別に熱心にオタクをやるつもりもない」といった若者たちのオタクに対するスタンスが、従来のオタクにギャップを与えている。