身体、脳、空間、時間の制約から解放される
このうち1番目はまさにアバター共生社会が目指すものだ。
ムーンショットの目標1は、僕と株式会社ARAYAの金井良太代表、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の南澤孝太教授の3人がプロジェクトマネージャーとして目下取り組んでいる。このプロジェクトでは、より詳しく言えば、
・いつでもどこでも仕事や学習ができ、通勤通学は最小限にして、自由な時間が十分に取れるようになる
このふたつの実現を目指している。これらを具体化すると、冒頭の①②で掲げた40歳の女性や75歳の男性のイメージのようなものになる。この目標が意図するところを解説してみよう。
日本では少子高齢化が進み、労働力不足が懸念される。こうした状況下では、すでにフルタイムで働いている人たちに加え、介護や育児をする必要がある人や高齢者などの、さまざまな背景や価値観を持つ人々が、自らのライフスタイルに応じて、さまざまな活動に参画できるようにすること――言いかえれば人間が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現することが、必要不可欠である。
そしてその社会の実現のために、ロボットやAI関連の一連の技術を活用し、人の身体的能力、認知能力および知覚能力を拡張するサイバネティック・アバター(人工知能技術と融合してより発展したアバター)技術を、未来の社会通念を予測しながら研究開発していく。これがムーンショットの目標だ。
一言で言えば「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」である。
同時並行で複数のアバターを「自在」に操る未来
2050年にはテクノロジーの力で今日以上に人間の能力が拡張され、人々の生活様式が劇的に変わる。誰もが複数のアバターを自在に遠隔操作し、現場に行かなくても多様な仕事、教育、医療、社会活動に参画できる。
ここで言う「自在」とは、アバターが操作者の意図を汲み取りながら、思い通りに活動できる状態を意味する。ひとりの人間が複数のアバターを利用するには、アバターが自律的にタスクをこなす機能を持つ必要がある。そうでなければ、人間は一体のアバターに張り付いてずっと操作していなければならなくなり、生産性向上の度合いは限定的になる。だからアバターを半自律的に活用し、時にはひとりの人間が並行して複数体のアバターを操作する。
①の教師の例で挙げたように、決まり切った動きやプレゼンに関しては自動で行い、細かく複雑な動作が必要なときや定型的ではない質問に答えるときには、人間が中に入って行う、といったように。このときアバターは操作者の意図を無視して自律的に活動するのではなく、操作者の意図を汲んで自律的に活動する。狙った通りに遠隔操作ができ、また、意図した通りに自律的に動いてくれる――これを指して「自在」と呼んでいる。