生身の人間より上手にプレゼンを行える
……いかがだろうか。
①と②は現在の技術を基に考えた未来予想であり、アバターの多様な見かけを使い分けることで可能になる活動や、時差を利用することで地理的制約を超えることが可能になることを示したものだ。
なお、①で言及した、アバターに抑揚の利いた身体表現を行わせるノウハウはすでに存在する。人間の生身の身体では、トレーニングを積まないとジェスチャーを伴いながら上手にプレゼンすることは難しい。ところがアバターにプログラムを書けば、自分自身が生身でするよりもはるかにゆたかに視線や身体の動きを使ってプレゼンできる。
プレゼン用の身体の使い方を訓練されていない人であれば、プロの所作を基にプログラミングしてジェミノイドなどのアバターにやらせたほうがよほどうまく観客に伝えられるのである。
また、アバターを用いて匿名・偽名で働いたほうが、労働者(操作者)の安全を確保できる。たとえば②で挙げたような警備員や、警察などの仕事では、時に危険なことも起きる。だがアバターなら万が一破壊されても本人の安全を保証できる。
実際には警備用のアバターロボットは人間以上に屈強に設計するはずだから、簡単に壊れることはないだろうが、近未来においては犯罪者側が銃火器で武装したアバターを用いないとも言えないため、なおさらアバター警備のほうが望ましいだろう。
アバター技術で実現しようとしている9つの目標
さて、このようなアバター技術が可能にする未来への実現に向けて、日本では国家予算を使った大型プロジェクトが進行している。
僕は、2020年度に始まった、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業(ムーンショット20)にプロジェクトマネージャーとして参画している。これは日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にはない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラムである。ここでは2050年まで(7番目のみ2040年まで)の達成を目指す、9つの目標が掲げられている。
2.超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
3.AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
4.地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
5.未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
6.経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
7.主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
8.激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
9.こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現