「永遠の若さ」を得ることができる

仕事を終えた彼女は、夕食をとりながら自宅リビングにて幼少期からの親友とAR(拡張現実)機能を搭載したテレプレゼンス(遠隔地の相手とその場で同じ空間を共有して対面しているような臨場感を提供する技術)端末を使って時間を過ごす。互いによく知った関係なので生身の身体を投影しあっているが、背景はふたりの想い出の空間をAR技術によってそれぞれの部屋に再現している。

彼女は午前中に高性能アバターで旅行した土地で撮影した3Dデータを親友に共有し、次の長期休暇にリアルでいっしょに行く旅行の候補地として提案する。

ただ中学時代の同窓会イベントでは、みなが当時作成した自分の移し姿である等身大アバターに入って再会をすることもある。中年の大人が中学生のときの外見に戻って過ごすのだ。このように、アバターはある意味では永遠の若さを可能にするものでもある。

ブラジルにいながら日本の警備員として働ける

②未来のセキュリティガード――75歳男性

ブラジルに夫婦で住む高齢者。

彼の仕事は時差を利用して、ブラジルの日中、日本の深夜にビルや地域の警備をすることだ。自宅近くにある事務所から、多数のアバターを数人の同僚と共に操作する。アバター警備員は化学物質や放射性物質で汚染された場所やきわめて狭い場所、高所など、人間が容易には入り込めないところにまで配置が可能だ。彼は以前、火器で武装したアバターを用いた強盗と警備中に遭遇したことがあり、今日も油断せずに見回りを行う。

サイボーグの兵士と近未来的な街の通路
写真=iStock.com/gremlin
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生身の身体の能力が衰えても、アバターを使った仕事は可能だ。肉体労働もそうだし、知的労働もそうだ。アメリカなどの国では、20世紀から年齢による採用の差別が違法とされてきた。とはいえ雇用してみて実際に務まらなければ解雇された。

アバターが普及することで、日本のような年齢差別が激しい国ですら「定年」という概念が希薄化していったのだ。能力がある人たちはアバターのおかげで見た目、実年齢に左右されずに働けるようになった。若くて優秀な人は早く認められるようになり、一方で、アバターが老いによる衰えを軽減するがゆえに、特定の人物がリーダーとして君臨できる期間も延び、従来以上に長期政権が続く組織も生まれた。

「世代交代」はある部分では促進され、ある部分では起きにくくなったのだ。警備員として働く75歳の彼も、まだまだアクティブだ。

明け方に仕事が終わると家に戻り、夫婦で夕食をとる。

夕食後(日本の午前中)はそのまま、日本の自然豊かな観光地のガイドとして、ブラジルからアバターで世界各国からの旅行者をアテンドするボランティアに参加する。彼にとってはこれが週に一度の楽しみになっている。

20世紀初頭に日本からブラジルへと移民した日系ブラジル人家系に生まれた彼は、自身のルーツを知るために40歳で日本語と日本文化を勉強し始め、いくつかの資格を取得した。60歳前後からその知識を活かしてリモートで日本で働いたり、ボランティアをしたりしている。