「なぜ、うちの子は文章題だと解けないのか」。計算問題は大丈夫なのに、文章題だとわからない、間違えてしまうという子は多い。慶應義塾大学教授の今井むつみさんは「子供がつまずくのには原因がある。うちの子は苦手だからと決めつける前に、まずは、子供なりの理屈を知ることから始めるといい」という――。(前編/全2回)

※本稿は、『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。

「65の前の数は?」と聞かれ「66」と答える子の心理

計算はできるのに文章題だと間違えてしまうという子がいます。それは当然で、文章題を解くには、計算問題で求められる力とは別な力が必要なのです。それは、「言葉の力」と「考える力」です。

まずは「言葉の力」。文章題を読み解くためには、言葉を知っているだけではなく、その言葉をさまざまな場面や文脈で十分に使いこなせる「生きた知識」として身につけていることが必要となります。

たとえば「太郎さんの前に5人」「10日後」などと使われる「前」「後ろ」という言葉。当たり前のように使っているかもしれませんが、実は難しいのです。

「65の前の数は?」と聞かれ「66」と答える子もいます。その子は数が大きいほうを向いて「前」ととらえていたのかもしれません。大人だって、「前向き駐車してください」と書かれていても、壁に向いていたり通路に向いていたりしますよね。「進行方向に前向きということだな」などと、書いた人の基準を推測する必要があるのです。「右」「左」などの言葉も同じです。

算数の文章題には、こういった「時間」や「空間」を表す言葉が多く使われます。慣れていない子供にとっては、言葉の示す意味を読み解くことも難しいのです。

もう一つは「考える力」です。文章題を解くために必要な考える力にはいろいろな能力がかかわりますが(文末参照)、なかでも核となるのは「推論」をする力です。

関係性を見つけて見当をつけたり、共通するパターンを新しい状況に応用したりするための能力です。

たとえば「りんごが6つあります。妹に2つあげたらのこりはいくつですか」という問題。正しく立式するためには、「全部で6つ。そのうちの2つを妹にあげたのだから、のこりは『全体』から『あげた数』を引けばよい」と推論することが必要なのです。

また、文章題だと間違えるやっかいな理由は、子供一人一人が、これまでの経験から素朴な思い込み(専門的にはスキーマといいます)を習得しているということです。

わかりやすい例は、「数はモノを数えるためのもの」というスキーマです。「数」には、モノを数えるほかに、割合を示すという意味があります。ところが小学校低学年までは、りんごを数えるなどもっぱら前者を扱います。

分数を学び始めたときに、2分の1より3分の1のほうが大きいと間違えるのは、「数はモノを数えるためのもの→数が大きくなると量が増える」というスキーマを持っているから、分母の数字が増えると量が増えると思ってしまうのです。

2分の1と3分の1のピザ
写真=iStock.com/Issaurinko
※写真はイメージです

分数・小数や割合が難しいのは、それまで築いてきた「モノを数える」数の役割とは違う概念が入ってくるからなのです。

このように、子供の間違いには原因があり、その子なりの理屈があります。

次のページからは、具体的な問題を示しながら、なぜ文章題を間違えるのかを説明します。

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