力をつけた部長や課長が会社を辞める可能性

これまでにお話ししてきたとおり、管理者を置くことで、会社をスケールさせるスピードだけでなく、意思決定のスピードも落ちることになります。

それでもなぜ、美容室の経営者がお店に店長を置くのかと言えば、それは「自分の分身」として、自分の代わりにお店の全てを任せたいからでしょう。

店長を置くことでお店がうまく回ればいいのですが、僕の経験上、店長にお店を任せることで、逆にお店がダメになるケースも多いと感じています。

例えば「店長の力量」に依存したお店作りを進めていると、そこにはどうしても「店長の個性」が入り始めます。

そうすると、「経営者が目指す方向性」と「店長が目指す方向性」が食い違う可能性が出てきます。

この乖離かいりが大きくなると、店長が従業員をごっそり引き連れて独立するような事態になりかねません。

こうしたケースは美容室に限らず、一般の会社でも十分に起こりうることです。

例えば、力をつけた部長や課長が、経営者の言うことを聞かず、部下を引き連れて会社を辞めてしまうというケースは、一般の会社でも頻繁に起こっているのではないでしょうか?

店長にお店を任せるということは、言い換えれば、「店長の個性」を中心にお店のバランスが作られるということです。

そうすると店長が抜けた瞬間、積み木ゲームの「ジェンガ」のように、全てのバランスが崩れさってしまうケースも少なくありません。

こうなると後釜が大変です。

全てを任せたいから管理者を置くのに、任せることで、逆にトラブルに発展してしまうケースも実は多いのです。

誤解を生まないよう、あえて付け加えておきますが、僕は店長の存在自体を否定しているわけではありません。

実際、店長に任せることでうまくいっているお店はたくさんありますし、僕自身、店長を経験できたからこそ、今があります。

ここで僕が言いたいのは、店長を置くのであれば、メリットだけでなく、デメリットにもしっかり目を向けなければならないということなのです。

美容室で働く美容師
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです

部下にとって管理職は緊張を生む存在

さて、以上は経営者の側から眺めた管理者についてですが、逆に従業員の側から、管理者を眺めてみましょう。

例えば、あなたが新入社員だった頃を思い出してみてください。

直属の上司のことを、あなたはどのように感じていたでしょうか?

例えば、上司がずっと自分の仕事を監視していると、仕事がやりにくくて仕方がなかったのではないでしょうか?

社員たちに「僕がもっと現場に行った方がいいかな?」と聞くと、だいたい次のように言われます。

「いや、いいです。緊張するから来ないでください」

僕は、これが答えだと思います。

経営者の中には「管理者を置かないと、従業員が離職してしまうのではないか」と心配する方もいらっしゃいますが、真実はその逆です。

管理者が不在だからといって、従業員が離職することはありません。

従業員の立場からすれば、経営者やマネージャーといった管理者はどちらかと言うと緊張を生む存在で、マニュアルやルール、仕組みがしっかり機能していれば、不在の方がのびのびと仕事ができるものなのです。

もしも管理者を置かないとすれば、経営者に求められるのは、管理者がいなくても問題が起こらないような仕組みを設計することです。