問題を発生させない「予防的な治療」、認知行動療法で可能性を低減

それではどうしようもないのか、放っておくしかないのか、というと、そういうわけでもありません。

自分の性嗜好ゆえに逸脱行動を働いたり行動を抑えたりすることに、本人が困っている、苦痛を感じている、生きづらさを感じているのであれば、そこには診断基準に基づいた診断名がありますし、「性嗜好異常(パラフィリア)ではあるけれど加害行為を抑制する」ことにアプローチする治療法があるのです。

つまり心身医学で用いられるような根本治療を目指すものではないけれど、問題を発生させないことを目指す「予防的な治療法(あるいは行動のコントロールを目指した介入法)」はあるということです。

手を伸ばす男
写真=iStock.com/Mladen Zivkovic
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再犯防止プログラムにも活用中の「認知行動療法」

予防的な治療法とは、いったいどういうものなのでしょうか。最も活用されているのが「認知行動療法」です。

認知行動療法とは、まずい結果につながりうる考え方や行動などを特定し、その認知や行動を修正したり避けたりする方法を考える、あるいはその方法を実行するためのソーシャルスキルをトレーニングするものです。性犯罪者の再犯防止プログラムにも用いられています。

とても単純化した例を挙げますと、たとえばイライラしているときに、インターネットでポルノ動画を見てムラムラする。スッキリしないまま混雑した電車に乗って女性を見つけて触ってしまう。ある性犯罪者にそういったパターンがあるとします。その場合はまず、どのような状況でイライラしてしまうのか分析することから始めます。

仕事がうまくいかなかったとか、同僚や上司に適切に相談ができなかったのならば、「人に相談するやり方を考えてみる」という方法もあるでしょう。イライラしたあとの対処法として、ポルノ動画を見るのが引き金となった可能性があるのなら、別のことをやってみるのも一つの方法です。スポーツやカラオケ、料理など、社会的に認められる対処法の中から自分に合うかどうかトライしてみるというやり方もあります。

いずれも自分の持つまずい行動パターンを特定したうえで、リスキーな場面を明確にし、それをどう回避するか、あるいはどう対処するかという練習をするというやり方です。

このときに常識的な考えからすると、加害者が被害者の苦しみを想像することができ、反省や後悔を促せば、次は同じことをしないだろうというイメージがあるかもしれません。つまり、「相手の気持ちを考えてみよう」と、加害者の共感性に訴えかける考え方です。